カレッジマネジメント234号
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12競争のメリットとデメリット経営学が教える「競争しない戦略」Contribution寄稿68日本企業の売上高営業利益率の低下が止まらない。新型コロナ等の環境要因も大きいが、背景には日本企業同士の同質化競争がある。「他社がやるから自社もやる」「他社が止めたら、自社も止める」という横並びの発想から、なかなか抜けられない。もちろん競争には、効用もある。第1に、競争によって顧客は選択肢を増やせる。企業も選べるし、製品・サービスも選ぶことができる。電電公社独占の時代の電話機と現在とを比較すれば、その違いは歴然である。第2に、競争によって価格も下がる。電話料金や航空料金は、競争が生まれたことによって価格が下がってきた典型例である。第3に、競争があると市場も成長する。かつて宝酒造㈱が、「バービカン」によって孤軍奮闘していた時代は市場が確立できなかったが、昨今のノンアルコール飲料市場は、各社の競争によって市場も急拡大している。第4に、競争は組織を活性化させる。ライバルと切磋琢磨することによって、ヒトや組織能力も高めることができる。しかし一方で、競争にはデメリットもある。第1に顧客よりも競争が優先されてしまい、顧客そっちのけで競合の動向を探ることにエネルギーを費やしてしまう。かつてのガソリンスタンドの価格競争等がその例だ。第2に、同質化競争の究極は価格競争であり、各社が価格を引き下げ、誰もが利益が出ない状況になってしまう。こうした競争をカット・スロート・コンペティション(Cut Throat Competition)と呼ぶが、これが日本企業の利益率が低い背景にある。第3に競争ばかりに目を注ぎすぎると、組織の疲弊を招く。ライバルへの短期的対応を繰り返すことによって、従業員は心身共に疲弊していく。このように競争には良い面もあるが、日本企業が得意としてきた同質化競争には、デメリットも少なくない。過去の経営理論では、競争はどのように捉えられてきたのであろうか。競争戦略の体系を作ったマイケル・ポーターの『競争の戦略』(1980)をよく読むと、5つの競争要因の脅威が少ないほど、高い収益率が得られると説明している。本のタイトルは『競争の戦略』となっているが、本当は「競争しないための戦略」が説かれているのである。またベストセラーになった『ブルー・オーシャン戦略』慶應義塾大学大学院経営管理研究科(MBA)修了後、三菱総合研究所にて大企業のコンサルティングに従事。1981年早大に転じ、早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授。専門は、競争戦略、ビジネスモデル。博士(学術:早大)。アステラス製薬、NEC、ふくおかフィナンシャルグループ、サントリーHDの社外監査役・取締役を歴任。主著に『競争しない競争戦略 改訂版』『異業種に学ぶビジネスモデル』2冊とも日本経済新聞出版、『成功企業に潜むビジネスモデルのルール』ダイヤモンド社、『ビジネス・フレームワークの落とし穴』光文社等。早稲田大学ビジネススクール 教授山田英夫【前編】「競争しない競争戦略」は大学でも有効か?

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