カレッジマネジメント234号
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競争しない競争戦略のバリエーション競争しない競争戦略ニッチ戦略不協和戦略(1)(2)(3)協調戦略69(2005)においても、「競争のない市場を切り開く」「競争を無意味なものにする」ことが望ましいとされている。ほかにも企業の中核的能力に注目した『コア・コンピタンス経営』(1994)でも、成功の方程式は、競合他社とぶつかるのではなく、避けることだと述べられている。日本の経営学でも、例えば伊丹(2012)は、企業の戦略と軍事の戦略には類似点が多いと指摘し、最大の類似点は、ともに「競争しないこと」「戦わないこと」を究極の要として目指していることだと述べている。生物の世界では、ある種が生き残るためは、「棲み分け」と「共生」の2つの方法があることが示されている。棲み分けとは、生息する範囲を他の生物と分けることによって、存続を図る方法であり、例えば鳥類や魚類では、地上や水面からの距離によって、棲む種は異なっている。他方共生とは、コバンザメのように、異種の複数の種同士が相手に益を与えることによって、双方が存続を図る方法である。この考え方を企業の競争に当てはめると、図1のように、棲み分けに関しては、ニッチ戦略と不協和戦略、共生に関しては、協調戦略に置き換えることができる(詳しくは出所:山田(2021)山田 2021を参照)。ここで言うニッチ戦略とは、「競合他社との直接競合を避け、棲み分けした特定市場に資源を集中する戦略」(嶋口2000)のことである。代表的な例として、自動車におけるポルシェ、コンビニにおいて北海道に特化した㈱セイコーマート、漢方薬に特化した㈱ツムラ等があげられる。次に不協和戦略とは、「大手企業が同質化できない、もしくは同質化したくない状況に追い込む戦略」である。代表的な例として、営業職員を持たないライフネット生命㈱や、衣料の世界でモデルチェンジしない㈱ワークマン等があげられる。最後の協調戦略とは、「相手企業のバリューチェーンの中に入り込み、もしくは自社のバリューチェーンの中に、他社の事業を取り込み、win-winの関係を作る戦略」である。代表例として、ATMだけに特化し、多くの金融機関からATM事業を受託している㈱セブン銀行や、オフィスグリコのように競合する企業の商品も取り込んで共存共栄を図る戦略があげられる。競争しない競争戦略には以上のような3つの類型があるが、今後の日本の大学の戦略を、この3つの視点から見た場合、どのような戦略が考えられるであろうか。特に、経営資源が十分にあるとは言えない中規模大学において、どのような生き残り戦略が可能かを考えてみよう。棲み分け共生図1 競争しない競争戦略の分類3

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