カレッジマネジメント234号
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学ぶと働く学生との学修目標の共有化に課題感「つかむ、つなぐ、つかう」を身につけるICEモデルとは抽象的なDPをICEモデルで構造化9037東日本国際大学は福島県いわき市にあり、経済経営学部と健康福祉学部の2学部。学生が約800人、専任教員40数人の小規模大学である。2016年度採択のAP事業テーマV「卒業時の質保証」開始にあたり、「学生との学修目標の共有方法が課題」との意識は2学部に共通していたという。健康福祉学部の学部長を兼任する中山哲志学長は、社会福祉士等の養成課程を持つ学部特性を踏まえこう説明する。「国家資格試験で問われる専門性の高い知識はもちろん大切ですが、就職後の現場ではそれをもう少し幅広い視点から様々な状況と結びつけて活用する能力が必要となる。しかし、その必要性は膨大な知識の修得に追われる学生には見えにくくなってしまう」。経済経営学部についても同様に「スポーツ系の学生や震災後出身国が大きく変化した留学生等、学生の背景が多様であることもあり、授業目標の共有が難しいという問題意識がありました」と話すのは、2014年度から全学の教学改革に関わり、AP事業実施の設計等も務めた関沢和泉教授(高等教育研究開発センター 副センター長)だ。東日本国際大学のAP事業の最大の特徴である「ICE(アイス)モデル」は、この「学生と学修の目標を共有しやすいこと」を1つの理由として採用された。ICEモデルに基づく「ICEルーブリック」は、Ideas、Connections、Extensionsという3要素に学修目標を整理する「質的ルーブリック」だ。カナダのクイーンズ大学でスー・ヤング博士らが発展させてきたもので、日本でも初中山哲志 氏等・中等教育を中心に活用例がある。東日本国際大学では、「Ideas、Connections、Extensions」を「つかむ、つなぐ、つかう」と訳す等ヤング博士のアドバイスを受けてカスタマイズし、導入を進めていった。一般的な量的ルーブリックは、「ほぼできている」とはどの程度か等、段階の表現設定に難しさがある。評価を明確にしようと観点が細分化され、「評価の観点×評価段階」のマトリックスが大きく複雑になることもありがちだ。「ある概念を『定義する(ことができる)』、複数の概念を『比較する』といった『動詞』の分類表を利用して質的に段階を設定するICEルーブリックを使うとこの問題が回避でき、学修目標も『Iの知識をCで組み合わせ、Eで活用する』と学生に共有しやすくなると、導入しました」(関沢教授)。この簡素で学生にも教員にも分かりやすい枠組みは教員の授業設計にも活用される。「批判的思考力、課題発見力等ディプロマ・ポリシー(DP)にしばしば使われる表現は、理念的・抽象的で必ずしも分かりやすくはない。そこでこれをICEモデルに埋め込むために『〜できる』という『Can-Do ステートメント』に分解したうえで、コンピテンシーの表現バンクを作りました。それを各授業に組み込んでいくイメージです」(関沢教授)。例えば「コミュニケーション力」という抽象的なDPは、「ある表現を相手の反応に応じて別の表現で言い換えることができる」といった具体的なCan-Doに分解される。各教員は表現バンクを参照しつつICEルーブリックに授業目標を整理し、授業の各回においてさらに具体化する。各授業の現場での改善が教育プログラムレベルでの改善と結びをつなぐICEルーブリックを通じた学生との学修目標の共有東日本国際大学東日本国際大学 いわき短期大学 学長

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