データドリブン経営の成功確率は意思決定人材の育成にかかっている両角 頻繁に追っていかなければいけないものが何か、そこに向けて変わる必要があるのかを考えると、大学の場合はもう少しタイムスパンが長いものが多いと思います。安井 なるほど。大学がよりデータドリブンに考えなければいけないという観点からすると、もう少し企業や世の中のビジネスの動きのリサーチデータを増やして、年に何回かの意思決定をするときに十分な量のネタをどう集めていくかということの方が重要なのかもしれませんね。研究自体も企業ニーズや世の中の動きによって変わっていかなければいけないと考えると、世の中のニーズを先読みするというところでどうデータを使ってどうキャッチアップしていくかが大切になってくるはずです。両角 大学は社会との連携は色んなチャネルを増やしています。教育も研究も、企業と組むときには、たしかにキャッチアップのスパンは早い印象があります。安井 企業側のデータドリブン経営に対する必要性は、とにかくスピードを速めるというところに着目されている部分があります。企業がそういうスピードで動こうとしているのであれば、研究機関や優秀な学生を輩出する学校も同じスピード感を持ちながら内容を変えていく必要がある、といった流れは出てくるのではないでしょうか。時代に合わせてどう変わるのかを柔軟に考えることは企業だけでなく大学にとっても重要なことだと思いますし、そのためのデータ利活用は取り入れやすいのではないでしょうか。――データドリブンというと学内のデータを集めるほうに目がいきがちですが、社会が大きく変わっていることや学生の予備軍となる高校生の変化、就職環境の変化といった学外のデータをどのように把握していくかも非常に重要になってくるということですね。――データドリブンを語っていくと、もうひとつのテーマである経営戦略の実質化と密接に結びついていることが見えてきました。――データドリブン経営の成功確率を高めていくために最も必要なものは何でしょうか。また経営者が見る範囲や、その下にいる人たちが意思決定する範囲は本来定義されていなければいけないものです。その意思決定のヒエラルキーを上がっていく中で経験を通じて意思決定できる人になっていくのです。企業もそこが曖昧になっているところがあり、現場レベルで怖がる人は上に判断をあおぎ、そうでもない人は自分で勝手に決めているというようなところもあります。意思決定のプロセスにもきっちりとガバナンスを効かせるというのは今の日本の社会には重要だと思います。フラットな組織がいい、ということも言われていますが、それでは身につかないこともある。そういうことも考えて組織の形を考えていくことが大事です。安井 ビジョンとか崇高なことをいうつもりはなく、大切なのは課題があったら課題を解決するために必要なものは何かということです。データを先に考えるのではなく、自分達が向かう方向や解決したいことをまず定義し、優先順位をつけて、そこからデータを使って意思決定していく。この流れが浸透していくと、データドリブンが進むと思います。安井 やはり意思決定できる人をどれだけ用意できるかが一番大切になると思います。データを見て意思決定する人をどう底上げするかということを、企業も大学ももう少し真剣に考える必要があるでしょう。両角 今大学ではガバナンス改革をすればみんなうまくいくと思っている議論がよくなされます。しかし大切なことは、それをどうマネージしていくか、さらにはマネージできる人をどう育てるかということです。安井さんとのお話を通じて、それは大学だけでなくどこの組織でも同じだとわかり、やはりその点が重要なのだと確信を得ることができました。2030年に向けて乗り越えるべき壁大学経営5つのテーマ(文/木原昌子)11特集01
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