カレッジマネジメント235号
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日本の大学は諸外国と比べて職員が少ない教員と職員の連携を組織全体に広げる──職員のリーダーシップが育つために、ほかにはどのような課題がありますか。一方で、大学の教員達は、諸外国であれば事務系・技術系の職員がやっているような仕事も引き受けざるを得ません。それが日本の研究力の低下につながっていると私は見ているのですが、同時に職員は職員で、人数が足りていませんから、優秀な人がルーティン業務に追われ、新しいことを手掛ける余裕がありません。このようにパラプロフェッショナル的に動く職員の割合がもっと増えないといけないのだろうなと思います。一方で、定型的な業務に関しては、DX やそれ以前のIT化によって大幅に減らすことは可能でしょう。もちろん、そういった経営の実現には、大きな投資が必要となるわけですが。吉武 職員のリーダーシップが育ちにくいもう一つの要因が「数の問題」です。日本の大学は、教員2に対して職員が1なのです。一方で、諸外国は教員の数よりスタッフの数のほうが多い。大学が学生に教えなければいけないことはどんどん増えてくるわけですから、教員の数はどうしても一定数確保しなくてはいけない。職員も戦略的にもっと強化していかないといけないはずなのに、大学の収入が一定だとすると、残された人件費の中から職員を雇わざるを得ない。それが先ほどの比率になるわけです。高橋 私も大学で教えていたわけですけども、採点とか出席管理といった業務への対応が大変なんですよね。大学はもっとパラプロフェッショナルを活用しないとプロフェッショナルの本来の力を活かせません。パラプロフェッショナルとは、単に事務的に定型作業をやる人達ではなく、大学における色々な業務のそれぞれの専門性、例えば国際系の専門性等を備えた人達のことです。吉武 そうなると、先ほどから高橋先生もおっしゃっているように、改めてガバナンス改革も含めたトップの役割が重要になってきます。しかし、人材育成に関して言うと、職員をどう育てていけばいいのか、どういう環境で職員が育つのか、あるいはどういう職員になってもらいたいのかということをきちっと概念化する作業がどのトップマネジメントもあまりできていない感じがしますね。大学のトップはまず人的資源管理に関する理念や戦略を明確に持たないといけません。高橋 ここまで議論してきたようにトップの役割は非常に重要なんですが、一方で私が思うのは、トップの強力なリーダーシップだけに頼るのはやっぱり無理があるということです。たった一人の偉大なリーダーと残り99.何%のフォロワーによって大きな変革ができる組織ではないと思うのです、大学は。私は企業で人事の経験もあり、日本の企業もそこは不足している部分だと感じていましたが、大学はもっと欠如しています。人件費の配分においても、人を育てるという考え方においてもきちんとしたストラテジーがない。場合によっては教員を減らしてでも職員を増やすべきです。教員と職員がどのように役割を分担し合う構造にしていけばいいのかという組織のデザインに加え、どのような人材を育てようとしているのかというストラテジーとをしっかり考えていく必要があります。そういう意味で、教員の中からも、経営に関わっていく意識を持ちそれにふさわしい経験と学びをするような人達が出てきて、変革型リーダーの職員と一緒になって改革を進めていくことが必要でしょう。吉武 そこは大切なところですね。教員は新しいことが好きですから、新しいチャレンジは教員から起きることが2030年に向けて乗り越えるべき壁大学経営5つのテーマ17特集01変革を起こすリーダー育成をしてこなかった。大学はもっと人を成長させるための学習機会を作らなければいけない。(吉武)

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