カレッジマネジメント235号
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稲見 私が大学で研究として始めたのは、1990年代の第1次バーチャルリアリティ(VR)ブームの頃からです。今で言うところのメタバースに関わる技術に関わってきました。なぜ興味を持ったのかというと、例えばタイムマシンやテレポーテーション等、現実世界では不可能であることが、VR空間の中であれば実現できるかもしれないと考えたからです。もう一つの理由は私自身が、スポーツが得意ではなかったこと。自分の身体を自由自在に動かすことに憧れ、生身の体では不可能なことを、道具を使って実現できる研究に没頭しました。それが「自在化身体」の研究へと繋がり、「第3・第4の腕」「第6の指」の概念にもなりました。一方で、中村先生と立ち上げた「超人スポーツ」の活動過程から、身体を拡張するだけではなく、環境を変えることで能力を引き出す可能性も見えてきました。「手を使ってはいけない」というルールからサッカーが生まれたように、スポーツはルールを変えるだけで活躍できる人が変わり、インクルーシブなものになります。メタバースはまさにゼロからルールを作ることができる自由な空間。メタバースをうまく使って人間の能力を引き出すアプローチができないかと考えたのです。最近話題になった「けん玉できた!VR」は、玉の速度を調整して難易度を下げ、熟練者のお手本に合わせて練習すれば上達できることを証明した、まさにメタバースの可能性を示唆しています。日本の小学生が「体育が嫌いになる理由」と言われる逆上がりや開脚跳びも、このスローモーションモードやイージーモードを作ってあげることで誰でも楽しく習得することができるかもしれません。学ぼうとする人それぞれに合わせた難易度や教え方ができれば、モチベーションを保ったまま成長できるのではないで稲見 パラメータを変えることだけではなく、状態の計測が可能であることも重要な利点です。個人情報保護の観点で注意は必要ですが、メタバースはユーザーの行動データが取得しやすいという特徴があります。例えば、会話中の視点や声の抑揚、時間など様々なデータを取得・計測・分析することが可能です。これを私は、ディープデータと表現しています。これまでよりも深い情報を手に入れることができるのが、メタバースだと言えるわけですね。しょうか。それがメタバースで教育環境を作る意義だとも言えるわけです。──それは個人それぞれに合わせたシミュレーションが可能だからということでしょうか。東京大学のバーチャルリアリティ教育研究センターでは、バーチャルリアリティ自体を作る研究の一歩先となる、ディープデータを取得できるデバイスの設計や、ディープデータを活かしたサービス・製品やメディアの開発に取り組んでいます。そして、メタバースやVRを活用した教育についても着眼した研究も行われているところです。先ほど、学生主導でiUのデジタルツインを作ろうとしているという話がありましたが、東大でもコロナ禍で卒業式がオンラインになってしまった学生のために、在学生達が集まって「バーチャル安田講堂」を作ったという事例があります。それを受けて大学本部で「バーチャル東大」プロジェクトを立ち上げましたが、実働部隊は東大の工学部の学生達。建築学科の学生も参加して測量しながらデータを取って設計していました。まさにバーチャルファースト。現実世界の建築よりも先にバーチャル建築を経験しiUがNECと実施した仮想空間授業の実証実験。iUの教員と学生がメタバース空間にアバターとして参加して授業を実施、NECが行動データやバイタルデータを取得・分析。画像は実証実験での受講イメージ(左)と仮想空間のイメージ(右)。2030年に向けて乗り越えるべき壁大学経営5つのテーマ23特集01

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