カレッジマネジメント235号
26/83

中村 学習や経験の履歴、そして自身が作ったものやソーシャルメディアでの発言履歴などを総合して評価してくれるメカニズムができれば、学校が提供してきた成績表や卒業証明書と相対化されるようになるかもしれませんね。それをどのような位置付けとするかは、学校側も考えなくてはいけないし、同時にリアルの価値、コミュニティーで何がプロデュースできるのかという、そのコアの部分が最重要ポイントになる。メタ空間で学校と学校、そして学習法がどんどん繋がっていくところと、コアとなるリアルの価値。学校はどちらを目指し、選択するのか問われるような気がします。稲見 ソーシャルにも、デジタルに向いているソーシャル性とフィジカルに向いているソーシャル性があるので、その機能の部分をどうしていくかという話ですね。誰でも世界のオンライン教育サービスを受けられるCoursera(コーセラ)ができて、大学がなくなるかもしれないと言われたこともありましたが、そうはならなかった。一方通行な講義はオンラインで置き換えることができても、物理空間での双方向の体験は簡単には置き換えられない証左になったと思います。大学におけるソーシャル性、フィジカルとデジタルのバランスは何かを探ることはiUのチャレンジでもあるわけですよね。ても、授業料は変わらない。中村先生はその先の話をされているのだと思いました。学習における全行動のログが取れる時代においては、情報量の少ない学校歴のようなものではなく、情報技術を活用することで検証可能な学習歴で評価される時代になるということですね。CGで作られた世界や360度動画等の実写映像を「あたかもその場所に居るかのような没入感」で味わうことができる技術VR、 ARを包括する広義の概念であり、仮想世界と現実世界の情報を組み合わせて両者を融合させる技術を指す。カメラやセンサを 駆使し、両者がリアルタイムで相互に影響する体験ができることが特徴多人数が参加可能で、参加者がその中で自由に行動できるインターネット上に構築される仮想の三次元空間。ユーザーはアバターと呼ばれる分身を操作して空間内を移動し、他の参加者と交流する。ケーム内空間やパーチャル上でのイベント空間が対象となる。中村 デジタルのほうは、勝手にどんどん自走していろいろ繋がっていくだろうと楽観視しています。逆にフィジカルのほうはどう設計すればいいのか、答えがどこにもないような気がします。私は学校そのものをアンチテーゼみたいなものにしたくてiUを作ったのですが、実際にやってみると我々よりも学生のほうが肌感覚を持っていると感じることが多いですね。稲見さんが言うように、「一方通行の教える」にこれまでのような価値がなくなっているのは、本当に痛感しています。教え授ける教授という言葉も時代に合っていないですよね。稲見 福沢諭吉が述べた「半学半教(はんがくはんきょう)」という、お互いに教え合い、学び合うことでさらに高め合う言葉が、まさにそれを示していますね。中村 東大がメタバース工学部を作って中高生に教えてくれるのは、すごくありがたいですね。そこで学んだ学生をiUに勧誘したいです。図 xRの定義出典:経済産業省「仮想空間の今後の可能性と諸課題に関する調査分析事業 報告書」ちなみに東大の工学部も、あるチャレンジをしようとしています。メタバースというフロンティアを使って東大工学部生だけではなく、中学生や高校生、社会人の方々に先端知を伝える枠組みをできないかと考えました。ただ教員のリソースは限られているので、DXをしながら効率化していこうというコンセプトのもと、「メタバース工学部」を設置しました。あくまでも教育プログラムであって実際に学部ができたわけではないんですが、これまでの規制産業としての大学と少し違ったことを求めていくトライアルを今からやっておくべきだと考えたんですね。現実世界に、コンピュータで作った文字や映像等のデジタル情報を重ね合わせて表示することができる技術仮想空間の定義26VR (VirtuaI Reality)MR (Mixed Reality)AR (Augment Reality)

元のページ  ../index.html#26

このブックを見る