カレッジマネジメント235号
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稲見 ただ将来人口が減るというのは確実な未来。建学の理念に基づいて方向性を決めることが大切なのではないでしょうか。大学運営や教育のやり方に正解はないかもしれません。今回はたまたま東大工学部とiUが同じ方向を向いていましたが、また大きな変化が起きたときに、みんな同じように潰れてしまうのは避けたいところです。そういう意味では教育の多様性や新たな教育システムへのチャレンジ、この二つは重要だと思います。中村 まさに僕が新しい大学を始めたいと思った理由の一つです。iUはデジタルファースト、プロジェクトファーストで全員起業を掲げていますが、それらは手段に過ぎなくて、建学の理念は、変化を楽しむ人になる、イノベーションを起こす人達を育てるということ。多様でありながら総合性もあり、新しい挑戦ができる環境をメタバースが実装しやすくしてくれているというところでしょうか。稲見 メタバースファーストの大学もあってもいいかもしれないですね。オンラインで作ったコミュニティーが自分達にとって理想的だったら、リアルでも作ってみるとか。2023年に開校予定の神山まるごと高専※は、既存の製造業というアウトプットだけではなく、新しくビジネスを創る人材を教育しようという理念から生まれています。メタバースは社会実験もやりやすいですし、その中で得た優先順位で貴重なリソースの割り振り方を見極めて、物理に還元していく。それも一つのやり方だと思います。中村 メタバースの中では失敗してもいいですしね。テクノロジーを使って楽しい未来に向かって何かを作るのもいいし、別のジャンルが大事だと思っている人はそれを追求していけばいい。それがこれまでの枠を壊して繋がれるとより楽しくなりそうです。稲見 メタバース時代は、恐らくメタユニバースではなくてメタマルチバースになるでしょう。大学教育も、従来は一つのユニバーシティに所属し完結していたことが、複数の大学での学習歴を評価するマルチバーシティ制となる。さらにメタバースを活用した大学、即ちメタバーシティでは、複数の分身やアバターを活用しながら効率的にマルチバーシティで学び、異なるコミュニティーと繋がることに※小誌232号掲載  https://souken.shingakunet.com/higher/2022/04/post-3268-4.htmlなる。メタバーシティで学ぶことで、価値観の異なるマルチバースのコミュニティーとコミュニティーを繋げるハブとなるインターバース人材を育てることにも繋がるでしょう。これまでは場所ファーストで人が集まっていましたが、今後はハブとなる人がノードになって、多様な世界を繋いでいく。それを支援する技術を作ることもメタバース時代のチャレンジだと思っています。一方で、VRゴーグルをつけずにPCの画面でメタバースを見ているだけではメタバースの可能性は理解できません。大切なのは、やはり「百聞百見は一験に如かず」。まずは実際にVRゴーグルをつけて、ぜひiUやバーチャル東大に来てください。中村 人生の色々なステージで、別の組織に行ったり戻ったりしたときの設計も必要となるわけですね。稲見 それこそ1990年代に慶應義塾大学SFCができたとき、日本の多くの大学ではインターネット利活用が進むには何が必要かという議論は十分ではなかったと思います。水道の蛇口をひねれば水が出てくるように、SFCのキャンパスや大学の計算機室に行けば湯水のようにインターネットが使えるから、勝手にそこでインターネット人材が育っていった。そういう意味では、大学に行けば普通に使えるし、十分に遊べる。無駄遣いしていいぐらいのリソースがある環境が大切なのではないでしょうか。中村 iUにインターンに来ていただくのもいいかもしれませんね。これからは学生がやりたいことを意見として経営に反映する、学生から学ぶ・教わる時代になっていきますから。稲見 教授の言い換えは、共に授ける「共授」。そんな表現がいいかもしれませんね。中村 それいいですね。使わせていただきます!2030年に向けて乗り越えるべき壁大学経営5つのテーマ(文/馬場 美由紀)27特集01

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