飯吉 日本はオールラウンダーというか、「色々なことをこなせる多機能な人」が重宝される傾向があります。それもあって日本の企業は、最近のIT業界等では変わってきているかもしれませんが、採用ポストの要件等において「具体的に何ができる人か」という絞り込みが弱い。同じような業種・業界で類似の仕事に就いていた経験者を、過去の職歴などを参考にして採用するケースが多いかと思います。松村 日本でも、最近新卒では、「リシュ面」という言葉が定着しつつあります。正式には「履修履歴面接」というのですが、学生自身が履修した授業を登録し、成績をシステムに登録し企業に提出、その情報に基づいて面接を行うというものです。企業側は、相手の学生がS評価の成績を修めているかどうかではなく、S評価を取るために、どういう経験をし、ど日本においては、一部の難易度の高い国家資格やIT系の資格を除けば、転職においてもあまり活用されていないというのが現状。その背景には、アメリカ等と比較すると、日本は「社員の雇用が守られている」というのが根深くあると思っています。おそらく今デジタルで証明されているものは表層的なナレッジベースの知識学習の証明に偏っている。ですが、実際に仕事をするうえでは、スペシフィックなスキルだけではなく、ジェネリックスキルや仕事に臨む態度、コミュニケーション能力等、いわゆるソフトスキルといわれるものが求められます。デジタルによって証明される知識やスキルの情報だけでは、その人の仕事上の能力を証明するものとしては不十分です。日本はひとたび雇用すると、基本的には解雇させることが極めて難しいので、リスクを抱えて採用するには至っていないのではないでしょうか。自分自身の経験でも、 例えばアメリカでは、特定のポジションの人材募集に対して、同業種で働いていた経験者の応募もあれば、大学を出て間もない未経験者の応募もある。未経験者が業務経験者と勝負するために、学位に加え、オープンバッジ等で証明された自身のマイクロクレデンシャルを利用するわけです。ういう苦労をしているのか、あるいは別の科目でC評価になった理由は何かといったことを事実ベースで深くインタビューしたいというニーズがあるのです。採用の手段として完全に定着しているわけではありませんが、学業を通じて何をどのように学んだのかをきちんと見て採用しようという流れはあり、デジタルを活用した仕組みがそこに使用される兆しはあるとは言えそうです。──つまり、デジタル化によって可視化された情報を手繰って、深く学生について知ることができるという点では、企業・学生の双方にとって良い面があると言えそうですね。飯吉 個人の学修履歴を深堀りして採用可否を判断するということが進んでいるのですね。これは、3つのポリシーに基づいて学位プログラムのカリキュラムを作ったり、シラバスをしっかり作成して公開するなど、政策的な後押しもあって可能になったことと言えますね。教育情報公開の一環としてシラバスの内容が公開されているからこそ、企業の担当者は、学生が何を学び、それに対してどのような成績がつけられ、何を身に付けたのかを手繰って見ることができる。学生にとっても、可視化された自分の学びの履歴が活用される機会になるでしょうし、大学で真剣に学ぶ態度が形成されることにもつながると思います。松村 一方、新卒採用においては、ITが進化したことによって、学生からの企業へのエントリーがボタン一つできるようになり、人気企業の中には昔に比べて30倍、100倍といった学生からの応募が来るようになりました。どのぐらいの応募人数が集まるかという想定も難しくなっていて、多くの学生の母集団の中から選考して、面接段階までに持っていこうというのは大変なこと。一人ひとりの学習履歴を手繰っている時間がなく、効率重視に走らざるを得ないのが実態です。そんな中、今、スカウトやオファー、リファラルといった採用手法が盛んになっていて(図2)、何を学んだか、どんな経験をしたかではなく、「学校歴」に偏るという現象が起きてい32学びの履歴の証明をデジタル化する流れは進む。現状、日本の大学は諸外国から確実に遅れている状況。(飯吉)
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