カレッジマネジメント235号
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デジタルでの学修歴証明が普及するトリガーとは飯吉 そうですね。これからの「大学の価値」を考えた場合、やはり「どういう人を集めるか」というコミュニティに対する考え方が重要だ、と私は考えます。どういう先生から学ぶのか、どんな同級生や先輩・後輩と接するのかも含め、アカデミック・コミュニティを通じた活動が、オンラインだけでは代替できない価値を生み出す。ミネルバ大学のように、授業はオンラインで参加しつつ、世界各地の地域コミュニティでの活動を通じ、プロジェクトベースで教育を行っていくという形は、今後大学が教育機関としての価値を失わないための有望なモデルの好例です。飯吉 そうですね、例えばデジタルバッジは、グローバルな人材コミュニティや人的交流において活用がより進むと思います。例えば、オープンソース・デベロッパーのコミュニティに入っていくときに、仕事を任せてもらうための一定の信用を得るために、オープンバッジのような国際通用性の高いデジタルのマイクロクレデンシャルは有効です。一種の今の大学は、マスプロダクション的なイメージがありますが、今後はその対極となるような、サロンやアートスタジオ、ギルド、工房といったような、精神の涵養、気構えの鍛錬を学び教えるような場としての役割が高まるのではないかと思います。一方、今の日本の大学は、定員充足を最優先して学生募集を行っているところも多く、良いコミュニティづくりという理念は、残念ながら事実上崩壊しつつあります。国内外から色々な能力や感覚を持った人々が集まる多様で豊かなコミュニティとして大学が生き残るためには、定員を減らして質を担保するという選択肢も考えざるを得ないのかもしれません。──デジタルによる学修履歴の証明が活用され、普及は今後進んでいくのでしょうか。 免許証・パスポートのようなものだと言えます。一方で、大学内部に質の高いコミュニティをつくる努力は、大学が続けなければいけないこと。育成したい人材像を明確にし、他大学との教育の違いを持たせて、その成果を証明した大学が、起死回生する可能性があると思います。いずれにせよ、日本も、キャリア自律を意識した働き方は若者を中心にますます進むと思います。今はまだ、個人が学びの履歴を証明するという行動が定着していなくても、今後は盛んになるとは思います。また、労働力人口が減少するこれからの社会においては、雇用側より個人側が強くなる。その時、個人が自ら学修した成果を認めて評価してほしいという主張が受け入れられるようになるのではない(文/金剛寺 千鶴子)でしょうか。 松村 先ほど飯吉先生がおっしゃったオープンソース・ディベロッパーのコミュニティへの参加のように、個人がキャリア自律を意図した活動を証明するものとして、デジタルバッジ等によって学習歴を証明していくという動きは、今後普及は進むと私も思います。飯吉 そのような学習歴証明が普及する要因として、日本人が今後さらに海外の労働市場に出て行くこともトリガーになると思います。残念ながら、日本国内では給料が上がらないという状態ですからね。グローバルな人材マーケットでの競争に参入していく際には、自分の価値を海外に分かりやすくアピールせざを得ないので、デジタルによる学修証明が有効に働く可能性は大きいと思います。松村 あとは、個人のデュアルワークが企業で認められるようになるということも、トリガーになるかもしれませんね。先日、仕事でタイに行った際に驚いたのですが、セカンドワークのための大きな情報サイトがあり、多くの大学の職員が自身の情報を登録し、副業を探しているのです。日本でも自分のスキルを活かした副業を選択する場面において、オープンバッジの活用がありうるかもしれないと思います。2030年に向けて乗り越えるべき壁大学経営5つのテーマ35特集01偏差値の序列だけで判断するような採用はだんだんなくなり、企業はこれまでの評価軸とは異なる様々な観点を踏まえて判断せざるを得ない。(松村)

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