カレッジマネジメント235号
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競争的優位を保つといった意味でのシンプルな競争指標とともに、別の軸での評価も持っている必要があるだろうと思います。──大学はまず何をやっていくのが良さそうでしょうか。また、行政と企業とアカデミアの人事交流が大事だと思います。日本はあらゆる組織の課題ですが、組織をまたいで横移動するとキャリアがゼロからになる。人事交流が機能していないわけです。OJTを前提に真っ白の人が好まれる組織体も多い。越境人材を受け入れるだけではなく、それまでの蓄積をきちんと評価して共創していく必要があるのに、そうならないのは文化的課題ですね。有福 経営側からすると多様な評価指標を作るのは大変ですよね。でも結局のところ、どんな事業体であっても、社会的存在意義を突き詰めたとき、創立時の理念に立ち戻っていく気がします。そこを見直して現代化するというのは良いヒントになりそうです。宮田 大学が考えるべきは、社会の中で学びをどう位置づけるか。もちろん座学も大事ですが、社会への価値創出を見据えるなら、社会の実践の中で学ぶのが有効です。大学内部で完結できない学びを構築する必要があるわけで、そうした時のアカデミアとしての振る舞いをどう定めるのか。個の利益のために利害を調整して「共に創る」のではなく、様々なステークホルダーの方々と共同体としてどこに向かっていくのか、シェアドバリューそのものを考えて行くプロセス自体が学びになります。CoIU(仮称)ではそうした営みをボンディングシップと呼び、大事にしたいと思っています。宮田 まずは大学の特性を知ることだと思います。「社会との接点をどう作るのが本学らしいのか」という観点の議論が活発になると良いですね。有福 非常に共感します。越境できる人材は概ね異端扱いされてしまうので、そうした方々の仕事も「あの人だからできるんだよね」と属人的な評価になりがちです。そういう意味では、大学のように人材流動性の低いセクターに行けば行くほど共創は難しそうに感じますが、どうでしょうか。宮田 大学は今いる人材だけでは回らなくなっているはずです。どの学問領域でも多様な連携やDX等、今までにない挑戦が必要になっている。そうした状況においてなお、「あの人は論文を書いてないから入れたくない」などと言っている組織に未来はないわけで、既存の評価軸では対応できない人材をどうリスペクトしていけるかが問われていると思います。有福 評価者自身のアップデートも必要ですね。宮田 業界全体の課題として、多様性を組織の中に取り組んでいくことはマストでしょう。経営ボードがそれにいち早く気づいているところは強いと思います。有福 異質を受け入れることが文化的に難しいのだとしても、大学自身の今後の生き残りを考えた時に、真にオープンになっていく必要性を考える必要がありますね。大学に限らず、組織の自浄作用だけではうまくいかないところもありそうです。宮田 日本は島国で流入出がないこともあり、ハイコンテクストを共有しやすい文化ではあると思います。コンテクストが揃っている人達で一緒にいるのは好きだけれど、違いを受け入れることには拒否感があり、変化そのものが少々苦手。しかし、グローバル競争力の中で相対的劣位であり続ける今日の状況からして、既存のモデルのまま思考停止していたのでは、早晩立ち行かなくなることは目に見えています。有福 少子化は待ったなしで、大学自体の生き残り戦略を描けないとそもそも先がないですよね。宮田 Z世代は国際的に見ても、進学であれ就職であれ、その組織が自分の目標や大切にしている価値観を叶えられる現状の延長線上で未来を捉えないためのキーワードとして、多様性、実践、ボトムアップ等があります。今までのやり方で通用しなくなった状況で新たな価値創出スキームが必要とされており、われわれは何のためにあるのかを再度考える必要がある。それが膠着した組織が変わるきっかけになるし、きっかけにできたところから未来に向けた動きが始まるのではないでしょうか。42

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