カレッジマネジメント235号
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複数の必修科目で問題解決のプロセスに徹底して取り組むカリキュラムを洗練させ、研究の芽を幹、樹に育てていく習慣や技術、価値観等、人間が他から学ぶ等して引き継ぐもの全般、即ち、人間の営為のほとんどを文化と捉え(図1)、DSを用いて分析し、文化に関する確かな情報を社会に還元することを目的に文化情報学部が開設された。文理融合を謳うカリキュラムや学部を作っても、結局文理が交わることのない状況に陥るケースもある。文化情報学部では、先述した「文系的な態度で問題を発見し、理系的な態度でその問題を厳密に規定し、仮説を立て、データをとって分析・検証する」という一連のプロセスで問題を探究する科目を多く設け、人間の自然な力として文系的態度と理系的態度を発揮できるようになることを目指したカリキュラムによって、文理融合を実現した。多彩なテーマを扱う中、必修科目には、「文化情報学演習1・2・3」(1〜2年次)、「ジョイント・リサーチⅠ・Ⅱ」(3年次)、「卒業研究Ⅰ・Ⅱ」(4年次)等がある。「文化情報学演習」では、基礎的な探究型演習として、現象の見方やDSによる解析手法と解析結果の解釈の仕方、レポート作成の方法等を学ぶ。「ジョイント・リサーチ」では、グループ単位で研究活動を行い、問題を発見・解決する能力を養う。その際、文理両方の領域の教員が指導にあたることが推奨されている。専門性の軸足として4つのコース制を敷き(図2)、そのフレームの中で自分の観点を育てていく。そして「卒業研究」では、学生に対して教員が「自らの力の50%くらいを注いで」(下嶋学部長)、マンツーマンで指導にあたり、問題の発見からモデル化、仮説立て、データの取得と分析、仮説の検証という一連のプロセスに取り組む。このようにして探究型のカリキュラムを徹底してきた理由は、文理融合を実現する手法であることに加え、「学生達を教員と同等の、研究機関の一員として扱う」という考えからであるという。「文化に関する確かな情報をデータに基づいて取得し、社会に還元するという目的に向かい、学生も教員も一体となって研究活動を行うことで、学生がいちコンシューマーから社会に貢献する人材に進化していってくれるだろうという思いで取り組んできました」と下嶋学部長は述べる。さらにもう一つ目指しているのが、「理系的なことは苦手だ」「自分の専門分野は1つだから他のことはしない」といった誤った苦手意識や専門意識から生まれた自分の殻を、自ら破れる人を育てることだという。「DSを用いて文化を研究することで、未知の領域に飛び込む知的バイタリティや勇気を育てていこう、と。そうすれば、例えば、世の中が変化して仕事をめぐる状況が変わっても、学習によって自らの置かれた状況を克服することができるでしょう。これは、連携・横断の意義の一つでもあります」と下嶋学部長は話す。他方で課題としているのが、学修成果やディプロマ・ポリシーの達成状況の可視化だ。「教育・研究がうまくいっている手応えは感じているが、可視化はまだこれから。測定方法も含めて検討が必要」だという。「開設から17年間、理想に向かって教員と学生とでがむしゃらにやってきて、漸くわれわれの教育・研究の強みや改善点、成果が見えてきつつあります」と話す下嶋学部長。それを踏まえて次に見据えるのは、カリキュラムの洗練化と、研究成果の芽の伸長だ。2024年に予定しているカリキュラム改編においては、強みをより明瞭にし、改善点を改めたカリキュラムにするべく検討を進めている。また、研究成果については、今育ちつつある芽を大きく伸ばしていく。「学生達と共に様々に取り組んできた試行錯誤が、今、豊かな土壌となり、研究の芽や茎に育ってきているものがいくつかある。それを今後、文化情報学の幹、そして大きな樹にしていきたいのです」と下嶋学部長は意気込む。学部教育のさらなる発展と学生の活躍に今後も注目したい。言語現象の解明に取り組み、「言語を科学する」研究の断片的で大量の文化資料をデータ化し、文化研究の新たな枠組みを構築新領域を開拓数理・情報・統計の壁を越えた最先端のデータ科学研究を展開2030年に向けて乗り越えるべき壁大学経営5つのテーマ言語データ科学コースデータ科学基盤コース人間の行動様式を文化と捉えて分析し、予測・デザイン(文/浅田夕香)図2 4つのコース文化資源学コース行動データ科学コース45特集01

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