カレッジマネジメント235号
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求められるのは非効率への対応必要なのは「入学者の資質能力が大学の社会的評価を決める」という覚悟総合型選抜と高校の対応した高大接続活動の後ろに「うちの大学だとこういうことが学べる」といった募集広報を付与していくことが、出願前教育につながる。大学側も教職員全体で一体的に、高校の新課程シフトを支援する体制作りが必要だと感じます。運営面に軸足を置いて総括すれば、これまで効率性を第一にしてきた大学入試において、いかに非効率への対応ができるかという話になります。述べてきたように、入学した学生がどれだけ活躍しているのかを判断基準にすると、判断は変わってくるはず。「コストをかけてでも変えなければならない」という動機が大学経営側にないと、現場ばかりが辛くなるのは目に見えています。大切なのは、どのような大学創りをしていくのか、どのような教育研究を展開していくのか、それが高校の新課程シフトとどうつながるのかというストーリー。大学のミッションやバリューに即した人材獲得・育成の戦略です。また、「適性ある学生の学修成果」「波及効果」といった数値以外の成果を可視化し、ファクトに基づいた経営判断をしていくことでしょう。GPAだけでは測れないものがそこにはあるはずだと思います。いずれにせよ、「学生募集で失敗すると、ほかのどこに投資しても無駄になる」というのが私の主観です。もちろん定員充足しなければ経営的に赤字となり、柔軟な差配がきかなくなるわけですから、量的側面も大事です。しかし、述べてきたように、「本当に本学の方針に合う学生が獲得できているのか」という自問自答はできているでしょうか。かつては入ってから鍛えるというのもひとつの潮流でしたが、面倒見を良くしたところで、学生の多様化も相まって、結局教職員の負荷だけ増えてうまくいかないという大学が多い。高大接続活動や総合型選抜設計に力を入れると、入ってくる学生の質が劇的に変わり、育成スキームによって、卒業以降のキャリアにもつながる流れを創ることができる。こうした人材獲得設計の再考においては、まず大学の意義を再構築し、それに応じて、入試区分の位置づけを変えていく必要がある。そこの議論が深まっていくと、おのずと定まる大学の立ち位置や、これだけは譲ってはならないという一線が見えてくる。また、入試設計上は多様性の確保も必要であって、全員が総合型※1 https://souken.shingakunet.com/publication/.assets/2014_RCM184_32.pdfになればいいという話でもない。教育へのフィット感、多様な学生の活躍機会等を考えて人材ポートフォリオを設計する必要がありますが、高校に分かりやすく発信しないと、全部対応しないといけないように見えてしまう。このあたりは今まさに、高校から見て不透明な部分であり、各大学の広報戦略の腕の見せ所でしょう。一部の研究型大学の話だと思わずに、ぜひ挑戦して頂きたいです。最後に、今後の入試について少し触れておきます。今までは一般で受からない生徒を年内入試で受からせるという進路指導が多くありました。しかし既に、一番できる生徒が推薦系から決まっていくという世界観になってきています。受験生や高校の動きとも合わせて、それだけ今までの入試制度では大学教育研究に限界が生じているのです。社会に必要とされる人材を育成輩出するために、DP起点の教学マネジメントを適切に回すために、教育のスタートラインでの学生の資質能力が重要になっている。それだけ、学びに対する意欲を評価するプロセスが重要になってくるわけですが、一般選抜を含め、主体性評価のグラデーションすら定まっていないのが現状です。大学側が高校の進路指導、入試、大学の教育をきちんとつなげていくことを理解していく必要があり、そこにはアドミッションオフィサーという専門職が必要であるというのが、私が理事長を務めるJACUAPの活動でもあります。企業が採用を経営戦略として最重視するのと同様に、大学も「入ってくる学生の資質能力」が大学の社会的評価を決めるのだという覚悟がこれまで以上に必要です。そのうえで、これまでは一般選抜で受からない生徒を何とか年内入試で合格させようと奮闘していた高校側の意識が変わり、年内入試が優秀な学生の奪い合いの主戦場になる状況に備えねばなりません。あくまで起点は大学教育と置いたうえで、入試区分で求める人材像に合わせた評価方法を各大学がしっかりと設計していくことが肝要と考えます。(文/鹿島 梓)53特集02

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