カレッジマネジメント235号
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総合型選抜が生徒の成長を後押しする一面も総合型選抜と高校の対応とだと考えています」その礎となるのが、中学1年次の「サイエンスリテラシー」の授業だ。身近な気づきから問いを立て、情報の収集、分析、構築、表現をするという探究のサイクルを学ぶ。そのうえで中学2~3年次に複数の講座から各自が興味ある分野のゼミを選び、課題設定から論文作成まで実践。高校生になると、コースごとに自分の興味・関心にもとづく探究活動に打ち込む。例えばメディカルサイエンステクノロジーコース(MSTC)では、高校生一人ひとりが自分で設定した自然科学の研究に取り組む。週2コマのゼミは「進捗報告会」で、研究そのものは放課後や昼休みに進めるという。実験装置の揃ったサイエンスラボ(理科室)が教員の監督下で開放されていて、進捗報告会までにおのおのが責任を持って自由に活動するのだ。その成果は、学園祭でポスター発表(コロナ禍は動画発表)し、外部コンテストにも全員参加でアウトプット。学会の高校生部門にも積極的に参加している。また、同校は「変化し続ける世界で求められる12のコンピテンシー(能力・行動特性)」を掲げており、探究活動を含むあらゆる学校生活において、これらを伸ばすことを、生徒も教員も意識して学んでいる。こうした実践で同校は総合型選抜でも結果を出すようになった。元大学教員で現教頭・MST部長の辻 敏之氏は「学んだこと、やりたいことを生徒が自分で語れることを評価してもらえているのでは」と捉えている。「日常ではおしゃべりではない生徒も、自分の研究テーマの話となると、スイッチが入ったようにキリッとして理路整然と話すのです。これなら面接の質疑応答にもその場で対応できるだろうな、と感じています」挑戦した外部のサイエンスや英語のコンテストで入賞する生徒もいて、それが本人の自信やさらなる意欲につながることも多いという。受賞した研究テーマの一例をあげれば、「PET微粒子を含む寒天培地の実用的かつ簡易な調製法」「パターン認識を用いた微生物単離法の探索」「耳の聞こえない方のためのアプリ開発」等がある。総合型選抜という制度も前向きに受け止めている。「志望者の人間性を一過性のもので判断せず、そこに至るまでに何を経験したか、エビデンスまで示すことを求めるようになったのだと感じています。総合型選抜を受ける生徒は『今まで何を学んできて、この先は何をしたいのか』と自分と向き合う時間が長くなり、それがまた本人の成長を促しています」(辻氏)生徒達はこの先をイメージしようと、興味のある大学の学部や学科についてWebサイト等で積極的に情報を集めるため、大学からの情報発信も重要だ。副校長の今井氏も、全国の大学がWeb発信等で高校生の関心を一層集めてくれることに期待を寄せている。「生徒の中には『海外のほうが学びたいことに打ち込める』『価値を高められる』と言う子もいます。その夢は全力で応援しますが、日本の教育への期待値が下がっているようでもあり、危機感もあるのです。国内の高校や大学でも、やりたいことを学べるし、そこで学んだことをもって世界中のどこでも活躍できるようになれるんだ。子ども達がそう思えるよう、日本の教育も一層盛り上げていければと思っています」生徒が制作した自分の研究紹介動画。小学生でも分かる内容にすることを目指した。(文/松井大助)57特集02

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