カレッジマネジメント235号
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Contribution寄稿60競争しない競争戦略の3類型 (※前号より続く)①企業資産の負債化出所:山田(2021)質化が仕掛けられない戦略が、「企業資産の負債化」である。例えば生保業界では、かつては営業職員の数が、契約高を決めていた。生保は加入者がニーズを感じて自ら加入するものではなく、人的プッシュによってニーズ喚起することが鍵であったからである。しかしこの世界に、ユーザーが自らパソコンやスマホを操作し加入するネット生保が登場した。その代表格のライフネット生命(株)は、営業職員や事務所を持たないことから、安い保険料を実現し、かつ、加入者にとっては分かりにくいが、大手生保にとっては儲けの大きい特約を廃止し、消費者が保険を自ら選べるようにした。大手生保にとっては、営業職員は廃止できないし、ドル箱の特約も手放せない。チャネルの力がものを言ってきた業界で、ネット専業の企業が登場した業界では、同じような状況が生まれている。大学で言えば、社会構想大学院大学の実務教育研究科等が、企業資産の負債化の例と言えよう。同大学では、経験を積んだ社会人が、大学の講師・教授になるためのコースを開講している。近年、専門職大学院や専門職大学等で、一定比率の実務家教員が求められており、そこでの教員を養成しよ慶應義塾大学大学院経営管理研究科(MBA)修了後、三菱総合研究所にて大企業のコンサルティングに従事。1981 年早大に転じ、早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授。専門は、競争戦略、ビジネスモデル。博士(学術:早大)。アステラス製薬、NEC、ふくおかフィナンシャルグループ、サントリーHD の社外監査役・取締役を歴任。主著に『競争しない競争戦略 改訂版』『異業種に学ぶビジネスモデル』2 冊共日本経済新聞出版、『成功企業に潜むビジネスモデルのルール』ダイヤモンド社、『ビジネス・フレームワークの落とし穴』光文社等。競争しない競争戦略早稲田大学ビジネススクール 教授(2)不協和戦略前号234号では「競争しない競争戦略」の3つの類型のうち、「ニッチ戦略」に関する内容を執筆いただいた。今号では、「不協和戦略」と「協調戦略」について紹介する。企業が競争戦略を考える時に、相手企業の弱みがどこにあるのかを分析し、それを突くというやり方があるが、長年競争が続いていくと、相手企業も弱みを徐々に克服していき、つついても効果が出なくなることがある。そのような場合には、相手の「弱み」ではなく「強み」を分析し、その強みを生かすことができないような戦略を打つことが有効である(山田 2021)。不協和戦略は、大手企業が同質化しようとしてもできなかったり、同質化したくない状況に追い込む戦略である。大手企業の内外にある資産が、“負債”になってしまう場合に効果がある。大手企業が持つ量的・質的に優れた経営資源が、資産ではなく負債になってしまう状態を作り、資産があるがために同(1)ニッチ戦略棲み分け(2)不協和戦略(3)協調戦略共生(234号・2022年10月発行)(今号)山田英夫【後編】「競争しない競争戦略」は大学でも有効か?4

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