カレッジマネジメント235号
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るが、規制の緩和とともに、専門学校だけでなく、同じ大学同士のケースも増えるであろう。特に需要の大きい語学系とIT系では、受託・委託が常態となるであろう。2022年4月から東京医科歯科大学が、フランス語の授業を東京外国語大学に有償委託した。きっかけは、医科歯科大の仏語教員が3月で退職することにあったが、外語大に委託できれば、「学ぶ言語の選択肢が増えるだけでなく、学生同士の交流も生まれる」(※)という狙いもあった。さらに一橋大学、東京工業大学、東京医科歯科大学、東京外国語大学の4大学は、2001年4月から、「大学連合」を始めた。大学連合により、他大学の講義を単位として認めるだけでなく、学際領域のコースを共同で設立し運営する狙いがあった。これらの4大学は、専門領域に特化した大学であり、持っている資源と持っていない資源がはっきりしている。そのため、アライアンスが組みやすかった面もあった。一般にアウトソーシングは、当初はノン・コアビジネスから始まるが、成熟市場になると、コア・ビジネスのアウトソーシングにも進んでくる。具体例で言えば、企業が最初にアウトソーシングしたのは、警備、食堂、受付、物流等のノン・コア分野であり、その後ホワイトカラー業務(例:経理、教育、IT、調査等)に進み、成熟期になると、開発の一部や生産等もアウトソースされるようになった。この考え方を大学に当てはめれば、当初は、一般教養の科目、例えば履修人数が多い語学や体育等の科目からアウトソースが進むであろう。そして規制緩和が進み、バリューチェーンを全て持つことが難しい状況になれば、高度のITC科目のように、専任の教員ではまかなえないような科目がアウトソースされるようになろう。ちなみに、企業において初期のアウトソーシングの判断基準は、コストが高いか安いかであるが、成長期、成熟期に入ると、その機能を持つことが自社のコア・コンピタンスになるか否かが判断基準となる。そのため、初期はアウトソースされる分野は業界横並びであるが、成長期、成熟期になると、各社の戦略によって、何を持つか、何を外に出すかが変わってくる。即ち、自分の大学の何がウリであり、ウリに関する資源は多少コストが高くても内製化しなくてはならない。逆にウリの対象から外れた領域は、仮に競合する大学がコアにしていようが、アウトソーシングする決断が必要であろう。【注】(※)日本経済新聞 2022年3月16日【参考文献】・ Hamel G. and C. K. Prahalad (1994), “Competing for the Future”, Harvard Business Scholl Press. (一條和夫訳〈1995〉『コア・コンピタンス経営』日本経済新聞社)・伊丹敬之(2012)『経営戦略の論理 第4版』日本経済新聞出版社・Kim W. C. and R. Mauborgne, (2005), “Blue Ocean Strategy: How to Create Uncontested Market Space and Make the Competition Irrelevant”, Harvard Business School Press. (有賀裕子訳〈2005〉『ブルー・オーシャン戦略』ランダムハウス講談社)・Porter M.E.(1980)“Competitive Strategy: Techniques for Analyzing Industries and Competitors”, Free Press (土岐 坤・中辻萬治・服部照夫訳〈1982〉『競争の戦略』ダイヤモンド社)・嶋口充輝(2000)『マーケティング・パラダイム』有斐閣・山田英夫 (2021) 『競争しない競争戦略 改訂版』 日本経済新聞出版社企業の場合には、バリューチェーンの一部分の連携から始まって、経営統合に進む例も多いが、大学の場合には、トップダウンが強い大学であれば、経営統合の方が早いかもしれない。国立では、北海道の小樽商科大学、帯広畜産大学、北見工業大学の3大学が2022年に法人統合した。3校はいずれも“単科大学”であり、統合により総合大学化して存続・発展を目指す。また、静岡大学と浜松医科大学も法人統合し、静岡大学は医学部を持つ総合大学として検討を進めている。さらに2022年10月に、東京工業大学と東京医科歯科大学は1法人1大学に統合することに合意した。企業で言う、大型合併である。両大学は、多様な社会課題を解決するため、理工学、医歯学、さらに情報学、リベラルアーツ、人文社会科学などを収斂させた「コンバージェント・サイエンス」を目指している。私立では、慶應義塾大学が2008年に共立薬科大学を合併し、現在は東京歯科大学と合併交渉中である。これが実現すれば、慶應義塾大学は医、看護、薬、歯と、医療系を全て持つ大学になる。また神戸山手大学と関西国際大学も2020年1月に統合した。これによって関西国際大学は、保健医療、国際コミュニケーション、教育、経営、人間科学、現代社会の6学部を持つ総合大学になった。バリューチェーンの提携からM&Aと、これまで企業でしか見られなかった経営手法が、大学の世界でも求められてきたと言えよう。以上見てきたように、企業で行われている競争しない競争戦略の一部は、特に経営資源の少ない中堅大学でも有効であり、大学関係者にとっては、一般企業が採用してきた戦略に、今後のヒントがあるのではないだろうか。63

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