カレッジマネジメント235号
68/83

伝統ある社会科学教育研究を次代に向けてアップデート全学教育改革と並行して新学問の体系化に挑む一橋大学は2023年、ソーシャル・データサイエンス(SDS)学部とソーシャル・データサイエンス研究科(修士課程)を同時開設する。1951年に当時の法学社会学部を法学部と社会学部に分離改組して以来、72年ぶりとなる学部増だ。一橋がこのタイミングでデータサイエンス(DS)人材育成を強化するのはなぜか。また、ソーシャルを掛け合わせる狙いは何か。設置趣旨や背景について、理事・副学長(総務、研究、社会連携担当)の大月康弘教授、ソーシャル・データサイエンス教育研究推進センター センター長の渡部敏明教授、同副センター長の七丈直弘教授にお話を伺った。今回の新増設のコンセプトは、「社会科学とDSの融合」だ。一橋は社会科学の総合大学だが、変化が激しく予測不可能な現代・未来の課題解決に当たっては、社会科学「のみ」の視点では不十分であり、社会で蓄積される大量のデータを適切に用いて変化を把握することが必要となる。一方DS「のみ」でも不十分であり、データ活用の軸となる有意義な「問い」を立て、有効な「社会実装」を行うには、社会に対する深い造詣が必要となる。これまでの社会科学の良質な教育研究の蓄積を背景に、それをより社会実装する方向性でアップデートしようとするのが、今回の改革とリクルート カレッジマネジメント235 │ Jan. - Mar. 2023理事・副学長大月康弘 氏なる。大月理事は、新学部の教育内容を「データに基づいて社会科学を学ぶこと」とまとめる。「今必要なのは社会の事象を専門的に理解したうえでツールとしてDSを扱い、イノベーションを牽引していく人材。本学はそこに真正面から取り組む所存です」。渡部教授も、「社会科学の専門家がデータを扱えるようになることで、これまで解決できなかった課題に対しても有効にアプローチできるようになり、新たな価値創造につながる」と補足する(図1)。一橋は、経済学部を筆頭に、どの学部も入試における数学の配点比率が高い。数学を学んできた学生が多い基盤は、数的素養を前提とするDS修得には間違いなく有効に働く。DS文脈における一橋の動きで言えば、文科省の「令和3年度数理・データサイエンス・AI教育プログラム(MDASH)リテラシーレベル」に採択された『AI入門』がある。これは2020年度から始まった全学共通教育科目で、AIやDSの原理や機能を概観し、それらを用いた問題解決の考え方や方法を身につける内容であり、開設当初から履修希望者が非常に多い。「ソーシャル・データの切り出し方を全学に行き渡らせるよう、全学共通教育科目『AI入門』を含むデーSDS教育研究推進センターセンター長渡部敏明 氏SDS教育研究推進センター副センター長七丈直弘 氏68事例report_09 一橋大学#5による新たな価値創出データサイエンス(DS)教育の最前線ソーシャル・データサイエンス学部/ソーシャル・データサイエンス研究科

元のページ  ../index.html#68

このブックを見る