カレッジマネジメント235号
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データありきではなく、目的ありきでデータを活用するをわからずにやっているところがあるので、それが一番の問題点となっていると思います。――大学においては意思決定自体がそもそも遅いということで、ガバナンス改革が外圧的に言われています。IR(Institutional Research)でデータを取りながら意思決定をしていこうという動きもありますが、大学の意思決定の課題はどういうところにあると思われますか。――現在、大学での意思決定におけるデータの活用度合いはどのような状況でしょうか。両角 IRの導入によってデータに基づいた経営への意識や、社会に説明していくためにもデータをうまく活用して示していく必要があるという認識は広がったのではないでしょうか。しかし、大学の意思決定の課題という点では、誰がそれを決めていくのかという部分に難しさを感じています。教育研究であれば現場が一番物事を知っていますが、経営判断のスピードばかり取りざたされると、現場と乖離したところで意思決定が進み、結局現場がついてこないといった齟齬がおきてしまいます。意思決定の速さと同時に、実は「誰」が「どう意思決定していくのか」ということとセットで考える必要があるのです。スピードだけを見ていてはガバナンス改革をしても良くなったという成果を実感できないということになります。両角 うまく活用している大学もあれば、データはあるはずなのにうまく大学の課題や戦略の発見に結び付けられていない大学も多いという印象です。例えば学事データから自動的に作れるものや、学生アンケートや意見を聞いたものは、どこの大学でもあるはずです。データを活用するために学内の誰でも見られるようにしたり、社会にそのまま出して説明したほうがいいといった議論が大切ですが、実情はデータについて「このデータはどこまで出せますか?」ということを議論に終始していることが多いのではないでしょうか。データを十分に生かせていない理由は、データを扱う人の問題であり、組織風土の問題であるところが大きいのかもしれません。いつも問題だなと感じるのは、データに対する考え方です。企業の方と話をすると、まず、「自分たちが今持っているデータをどうにか使わなければいけないと」いう話からスタートすることが多いです。データというものは、自分がやりたいことにこういうデータが必要なんだ、というところから定義されない限り、使いようがないものです。考え方を根本的に変えることが重要だと思います。――データを分析する人は、単に分析するだけでなく、そこから読み取って何を意思決定してもらうかが大切だと思います。そう考えると日本の大学ではIRを一人の担当者がやられていることが多く、非常に高い負荷を背負っているような気がします。――全員がそうではないと思いますが、データを集めるけど信用していないよ、というのはどういったことからおっしゃっているのでしょうか。安井 データをもっとうまく使えばいいのに、といった状態は企業もまったく同じです。両角 例えば大学生への今の課題や実態調査で、こういうことをもっと聞いた方がいいのではないかと新しい提案をしたときに、「いや、経年比較できなくなりますから」と言われることがあります。問題は経年比較ができるかどうかではなくて、今の実態を知るために必要なデータかどうかということ。そこを見据えることは大切ですね。両角 現状、IRの担当は大学職員の方や、若い教員の方が多いのですが、実は1人でやるのは難しいはずです。「こういう傾向があります」といった分析結果があり、そこから何かを学びとる・読み取る役割は別の人が担い、活用する方向性を示すことが必要です。しかしデータを誰がどう作ってどう出していくかという計画がないまま止まっていることが多い。学長でもそういう意識がない方も意外と多い印象です。IRが大事と話したそばから「実は私、データを信じていないんです」とおっしゃる方もいます。両角 データは解釈によってどうにでも捉えられる。学修2030年に向けて乗り越えるべき壁大学経営5つのテーマ7特集01

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