カレッジマネジメント235号
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大学の横断融合ビジョンのフラッグシップソーシャルを学ぶうえでのレディネスを総合問題で問う析・革新や社会課題の理解・分析・解決を実行できる力や、それらが有機的に融合した学術領域に貢献できる研究能力を培う。学部教育を高度化した内容で、実践演習に加え研究観点のアプローチも学び、自ら設定した社会課題に対する修士論文を執筆する(図2)。事前教育プログラムとして、オンライン教材によるSDSブートキャンプも設計した。修士課程に入るに当たり、SDSに関する学力水準を揃えることが目的だ。学問としてSDSを体系化するため、2年後には博士課程も設置予定である。七丈教授は、「大学の中で閉じた学問ではなく、ドクターもストレート学生だけでなく、社会に一度出た後にももう一度学べるような開かれた大学院にしたい」と意気込む。「学部も研究科も、社会接点をたくさん作っていきたい。SDSは課題ありき、イシューオリエンテッドの学問なので、イシューの置き方、探し方、設定の仕方が肝になります。単なる知的好奇心だけではなく、社会課題、解くべき課題を対象にしたいのです」と渡部教授も補足する。「本学は学部間がフラットである特徴がありますが、それでも融合を実現するためにはゼロから作る必要がありました」と七丈教授は振り返る。学部の入学定員は60名に対して担当教員が純増で18名、しかも一人ひとりが専門家としての実力高い一騎当千とも言える布陣だ。学生は専門領域における最先端の理論と知見をフロントランナーから直接得ることができる。DSを学べる学部を創ったというより、社会科学の今後をうらなう横断融合というビジョン達成のための学部として配置しているのがポイントだ。また、こうした教育体制は他学部への波及効果も期待されている。融合の核となるPBL等一部科目で受講条件はあるものの、SDS学部の科目の多くは他学部でも受講可能とし、各学部のDPの達成を棄損しないことを前提に副ゼミナールという形で他学部生も履修が可能なようにしたいという。※サンプル問題:https://juken.hit-u.ac.jp/sds/files/sds_sample.pdfでは、どのような学生に入学してもらいたいと考えているのか、入試設計の考えを聞いた。特に求めたい資質能力として、七丈教授は「社会に対して興味があること」「論理的思考能力」の2点を挙げた。それらを評価するための方策として、入学定員の半分に当たる30名を募集する一般選抜前期日程の2次試験では、総合問題という科目を課す。これは社会において数理的なものの考え方を応用する力、情報技術の活用について自ら試行する姿勢を確認するための科目で、「論理的に文章を思考する」「提示されている情報を読み取れるグラフはどれか選ぶ」といった、「考え方」や「数の捉え方」を問う問題が並ぶ。これらはソーシャルを学ぶうえでレディネスとも言える素養だという。「提供された情報について、ロジカルに読み解き、合理的な推定を行えるかどうかが肝です」と七丈教授は述べる※。「SDSの学びは、社会課題解決志向を持つ学生が学ぶとより伸びていく類のもの。総合問題がそれに寄与するだろうと我々は考えています」と渡部教授も言う。今回の新増設は産業界からは概ね好評で、多くの期待が寄せられているという。ただし、「啓発的な意味合いも含めてもっと裾野を広げたい」と七丈教授は気を引き締める。SDSは国際的に見るといくつかの先例はある分野だという。しかし日本国内においてはそうではないため、SDSの体系化はこの分野の国際ネットワークにおける日本の拠点となり、日本にとって新しい分野を創るハブ機関となることが見込まれている。大学全体として進める国際化においても重要なロードマップであるのだ。グローバルアドミッションやリカレントニーズ等への期待も高い。一橋としては、グローバルで見た時に新領域の国際的拠点となることを目指しつつ、大学としての他校にない差別化領域として立たせる新領域の体系化を進めていく、どちらの意味も担うものなのである。(文/鹿島 梓)71

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