カレッジマネジメント235号
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学生一人ひとりの想いに寄り添う大学新学部との学術交流で新たな知を創造という人間の営みを見つめるには、歴史や文化だけでなく景観学や住居学、地質学といった理工学的な発想が必要。これは理系分野を含めた学問知や人間知を明らかにする文理融合に向けて本学が踏み出す第一歩であり、教員29名のうち半数は理工学系出身の教員、受験科目にも数学、理科を入れた」と針本学長は語る。この間キャンパス(図1・2)の再配置にも取り組んだ。120周年事業として渋谷キャンパス再開発を開始し、2009年に4学部の1・2年生を横浜たまプラーザキャンパスから渋谷に移し4年一貫とした。一方、横浜たまプラーザキャンパスでは2009年の人間開発学部設置に向け再開発を行い、観光まちづくり学部設置の際は一棟を丸々リニューアルした。「学部増設に連動してキャンパスリニューアルも進行してきたのがこの20年の歩み」(針本学長)と振り返る。「21世紀研究教育計画(第3次)」(2012-2016)に掲げたミッション「國學院ブランドの確立と強化」では、初めてブランドに言及した。当時の議論から、ブランド力の強化とは「神職や教職の國學院というイメージを強化するだけではなく、学生一人ひとりの想いに寄り添う大学でありたいという考えに共感し、大学の内容を理解してくれる方を増やすこと」だと考えた。例えば、まだ受験を意識していない高校1年生を対象に、『キャリアブック-4年後のための「就職と仕事」読本』(図3)の作成、配付を始めた。以前は新聞広告等の出稿もしていたが、不特定多数に発信するマス広告よりも、高校生一人ひとりを対象に、それぞれの想いに敏感に寄り添う形の募集戦略にこの10年の間で変えてきたのである。『キャリアブック』は、「就社ではなく就“職”をコンセプトに業界7分野の仕事の中身を紹介し、約100名の内定者インタビューに落とし込んだ冊子だ。「國學院大學は高校生にどんな将来があり、大学生活がどのようにつながっているのか想像できることに一所懸命心を砕く大学だということを知ってほしい」と針本学長。それを内定者インタビューという、國學院ブランドの構成員である学生が実体験で感じた想いを自分の言葉で語り継ぐ「口伝」をもって浸透させるのが特徴だと続ける。これは、歩く國學院、動く國學院として、学生が大学の良さを広報する制度である「学生アドバイザー(受験生向けの広報活動)」(図4)にも象徴される。学生が自分の言葉で話ができることこそが國學院ブランドの具現化、実質化の証であり、ブランドが不断に変転、成長していくことに繋がるとしている。観光まちづくり学部では、様々な地域に調査活動に出向くが、学生の間で、人気の高い調査地の一つに離島の研究がある。「どんなに自分の経費がかかろうとも、自らの思いを実現できるテーマと調査地を選び取る意欲の高い学生が多い」と確かな手応えを感じたという。「今後は新しい発想を持つ新学部との学術交流で新たな知を醸成し、生みだしたい」と針本学長。既に、分野を超越した学際的・国際的研究「『古事記学』の構築」研究事業が2016年度文科省「私立大学研究ブランディング事業」に採択された実績もある。この4月から始動した中期5カ年計画(2022~2026)では、多様な価値観を認め、相互に理解する共生社会を創り出す人材育成を掲げ、建学以来重視している物事の本質を究めることを基に、未来をひらく大学を目指していく方針だ。 (文/能地泰代)図3 業界7分野の仕事の中身を紹介し、約100名の 内定者インタビューを掲載した『キャリアブック』図4 受験生への広報を担う学生アドバイザー達73

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