カレッジマネジメント235号
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人・活動をつなぐ「知(地)の杜」東北工業大学最先端設備と研究環境を備えた実験室生きた教材としての活用と維持管理しやすい空間構成学科横断を実現するコミュニケーションスペースInnovative & imaginativeなキャンパスの創造東北工業大学は、宮城県仙台市に位置し、工学部・建築学部・ライフデザイン学部の3学部及び大学院で構成されている。「わが国、特に東北地方における産業界で指導的役割を担う高度の技術者を養成する」という建学の精神の下、東北地方に位置する最も魅力ある工科系私立大学の実現に向け、2019年4月に中期計画「TOHTECH2023」をスタートさせた。工学部・建築学部のある八木山キャンパスの施設整備では、4つの建物の建替えを中心とした整備基本計画に基づき、「人・活動をつなぐ『知(地)の杜』東北工業大学」をコンセプトに2021年4月に新棟1期工事「実験・教育棟」が着工され、2022年9月に竣工を迎えた。実験・教育棟は、地上4階建ての鉄骨構造、延べ床面積は約9370㎡。従前、学科ごとの棟に分かれていた実験設備を一つの建物に集約することで、他分野の実験を目にすることができ、学生の興味を引き出すことができる“学科横断型”の活用を目指した。建物全体がガラスカーテンウォールになっており、外部から実験の様子が見られることで在学生だけでなく、高校生や地域住民にも視察体験ができることも視野に設計した。建物に親しみを持ってもらうために、学生・教職員・卒業生を対象に愛称を募集し、多数の応募のなかから「Tech-Lab(読み:てくらぼ)」に決定した。学生が実験・教育を通して工学的な技術(technology)を身につける場であり、専門研究の入口になることも期待して研究室(laboratory)とした。さらに「てくてくと…」気軽に立ち寄れる実験・教育施設をイメージした。1・2階は建築・土木系実験室を中心としたフロアである。1〜2層吹き抜けの大空間では大型設備を使用した材料実験や水理実験を行う。この空間は「Cool & warm pit」を採用し、空調設備の代わりに地中空間で冷やされた(冬は温められた)空気を循環させて室内の空調と換気に利用している。3階は、電気電子・情報通信・物理系実験室を中心としたフロアである。3〜4名のチームを組みディスカッション可能な空間構成とし、最大で150名程度が一斉に実験を行える演習室や、クリーンルームでの半導体制作、IP情報通信ネットワーク技術と光通信技術を検証できる場等、実践的な知識・技術を習得できる設備を設置している。4階は水質・化学系実験室を中心としたフロアである。アーム式局所排気装置や天井排気フードを備えた実験台と広い作業スペースを確保できる実験台が整備されている。可動間仕切りにより汎用性の高いフレキシブルな空間となっている。また、建物内には実験やものづくりの技術的な指導を通して学びをサポートする技術支援センターを配置している。教育支援系技術職員が専門系教員との橋渡し役となり、技術的側面をフォローしつつ、実学的教育の実践に参画している。建物の特長として一般的には隠されている設備配管を「見える化」をしたスケルトン空間としたことが挙げられる。また、耐震のための構造ブレースの可視化や、様々な建築素材に触れられる内外装とすることにより、生きた教材としての活用が可能であり、学生の興味関心を引き出しやすく、座学だけでは感じ取れない理解を深める工夫がされている。また「見える化」の効果として、大規模震災時における被害状況確認がしやすく、維持管理費軽減にもつながることを重視した。各階には、吹き抜けの空間に連続的に設けたコミュニケーションスペース「tohtech SPOT」を配置している。目の前には、ガラス張りの実験室で作業の様子が見られ、窓の外には、太平洋を望む景色が広がる。学生たちが授業の合間に自由に滞在できるだけでなく、学部学科を超えた学生や教員の交流を生み出す新たな居場所として活用されている。整備基本計画は1期を終えたばかりである。今後は学部学科再編も視野に入れた改修工事及び2期工事までのローリング計画を予定している。最終的には、地域住民や同窓生が集い、利活用しやすい機能を併せ持つ空間構成とし、SDGsも視野に入れカーボンニュートラルを重視するInnovative & imaginativeなキャンパスの創造を目指している。(文/東北工業大学 特命教授 菊地良覺)80

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