特集0123大学とのコラボは企業にとっても有益綱島SSTには、慶應義塾大学が「アドバイザリ」として参加している(図4)。パナソニック グループは、同学の教員と学生のどちらとも共働していると、小嶋氏と同じ部署で綱島SSTを担当している松並由恵氏は語る。「例えば工学部の先生と一緒に、住民の行動データをIoTで取得する取り組みを進めています。また経済学部の先生とは、そうして得られたデータを使って住民同士の交流を促す実証実験を行いました。一方、学生さんとは地域活性化のアイデアを出し合ったりするワークショップを一緒に開いたり、学生寮での実証実験に協力してもらったりしています」(松並氏)協議会のつながりを通じ、パナソニック グループから慶應義塾大学に協力を仰ぐケースもあるが、パナソニック グループが主体的に動いて協力相手を探す機会も多い。「慶應義塾大学の理工学部・理工学研究科は毎年、研究成果を発信する科学技術展『KEIO TECHNO-MALL(慶應科学技術展)』を開催しています。こちらに足を運んで先生を見つけ、コラボレーションをお願いしたこともありました」(松並氏)現時点ではパナソニック グループから慶應義塾大学側にアプローチする割合が高いが、今後はさらに、大学からの発信をきっかけにした新たな共創の機会が増えればと、パナソニック グループ側では期待している。「先生や学生さんが今、どんなテーマに関心を持っているか。また、研究がどこまで進み、何が実現できているのか等の情報をたくさん頂ければ、企業側も一緒に仕事がしやすくなると思うのです。その意味で、学生さん向けのワークショップやインタビューから新鮮な気づきを得られることはたくさんありますね。例えば、学生寮では春・秋になると多くの退寮・入寮者が出ますが、このときに大量の生活雑貨が捨てられるのです。これらを有効活用する方法はないかと学生さんから提案を受け、アピタテラス横浜綱島で定期的に開かれていたフリーマーケットに、学生さんの生活雑貨を出展する仕組みを整えました。大学の先生と企業が共働することで、研究的な成果が得られるケースはもちろんあります。しかし企業にとっても、学生さんと触れあう機会は貴重なのです。そこから、新ビジネスや若者向けマーケティング施策につながるヒントが得られるのではないかと、私たちは期待しています」(小嶋氏)大学に対し、人材輩出面での期待も大きい。サステイナブルな街を作るには、将来の担い手が不可欠だからだ。また、高校生以下の世代に対しても、街づくりやSDGsに掲げられた社会課題に興味関心を持つきっかけとなったり、綱島SSTに愛着を持たせたりするような取り組みを行っているそうだ。最後に、綱島SSTのようなプロジェクトで活躍できる人材はどのようなタイプなのか聞いた。「先ほども申し上げたように、街づくりには多くの企業や人と力を合わせることが必要です。ですから、多様な人を受け入れられる柔軟性や、チームワークを発揮できる人が向いていると感じます。またほかの共同プロジェクトに比べ、街づくりは大規模で長期間にわたるため、途中で方針がぶれやすい面もあります。そのため、意志の強さも必要かもしれません」(小嶋氏)ビジネスソリューション本部では共創プロジェクトを進めるうえで、『マッチングとコーディネートをする力』『ビジネスをプロデュースする力』『プロジェクトをマネジメントする力』の3つを重視しているという。マッチングとコーディネートをする力を伸ばすためには、社会課題を意識し、常にイノベーションを心がける姿勢を持つことが大切だ。また、ビジネスプロデュース力とは、様々な状況を見定め、そこから課題を抽出して解決方法を見つけること。そしてプロジェクトマネジメント力は、多様な企業や人々をファシリテートして1つの方向にまとめる力である。これらの素養が多くの企業が求められているものと言える。SDGsに掲げられた大きくかつ複雑な課題を解決し、社会の持続可能性を高めるためには、綱島SSTのように、複数の企業・団体が一緒に取り組むことが不可欠となるだろう。多様なステイクホルダーが連携することはもちろん容易ではないが、共創を機会と捉えてプロジェクトを推進しイノベーションを生み出そうとする企業の事例から得られるヒントは多そうだ。(文/白谷輝英)大学にとってのSDGs
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