カレッジマネジメント236号
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57「安心」して「やりたいこと」に挑戦したいデジタル環境との付き合い方特集03高校生価値意識調査2022リクルート進学総研研究員 岡田 恵理子今回の調査対象となった高校生はこれまで、止まらない少子化や日本経済の低迷に加え、2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災、2018年の西日本豪雨等の自然災害、2020年の新型コロナウイルスの感染拡大等、社会としては長く暗い時期を経験してきた世代である。これに加え、デジタルネイティブとして生まれ育った彼らは、学校教育では大学入試改革や新学習指導要領の導入を背景とした“先の見えない社会”への適応が求められている。2007年から不定期に実施している本調査だが、特に今回は社会変革の過渡期を過ごしている彼らを対象とした調査として、世相を反映した特徴的な結果が出たといえる。10年前の調査時は、リーマンショックを契機に経済不況が慢性化していた時期だった。当時の高校生は、夢の実現ややりたいこと重視の傾向が弱まった反面、大企業への就職や出世といった社会的評価を求める傾向が強まった。一方、長引く経済不安という点は共通しているが、2022年の高校生は夢の実現ややりたいことを重視する傾向が2012年よりも強まった。今回の記事内に掲載していないデータではあるが、経年で比較すると出世意欲の高まり、高収入を求める傾向、さらに公務員や会社員を希望する傾向が強まっている。しかし同時に、「あまり高望みせずそこそこ楽しい生活を送りたい」割合も増加している。 2022年は、夢か安定かという二項対立ではなく、やりたいことを重視しつつも、経済的な堅実さにもしっかりと意識を向けている様子がうかがえる。このことは、社会の将来の見方の明暗が別れていること、自分達の世代を「少子高齢化世代」「理不尽世代」と表現することからも分かるように、やりたいことを目指しつつも“守り”の姿勢を余儀なくされている状況であるとも受け取れる。「⑤自分達世代の『強み』・『弱み』は?」で見た通り、2022年の高校生はデジタル環境への慣れが強みでもあり、弱みでもあることが分かった。「弱み」の1位「コミュニケーション・会話が下手」の自由回答として「ネットに慣れすぎて対面コミュニケーションが苦手」を紹介したが、このほかに「匿名では発言はできるけど、名前を出すと自分の意見を言えない」「コロナで学校生活が潰れたこともあり、共同作業をする機会が減り、グループワークが苦手なこと」といった意見もあった。もともとネット・SNS上のコミュニケーションには慣れている世代ではあるが、新型コロナで対面の機会が極端に減少したことが「依存」に拍車をかけたとも考えられる。このことは、自分達の世代を「青春マスク世代」「制限世代」と称していることからも読み取れる。対面とオンラインコミュニケーションそれぞれの長所と短所を認識し、そのバランスをとることは大人でも難しいところがあるが、高校生自身から「依存」という言葉が出るほどに、彼・彼女達はそのことに強い危機感を持っているようだ。やりたいことを意識しつつ、堅実な姿勢も併せ持つ世代

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