カレッジマネジメント236号
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視野を広げるための授業設計60リクルート カレッジマネジメント236 │ Apr. - Jun. 2023一人ひとりが異なる志向を持つ社会人は、これまで同質性の高い18歳入学者に特化しその態勢を最適化してきた日本の大学にとって、「新たな市場・顧客」である。時々刻々と変化する環境下、また各大学それぞれに経営課題も利用できるリソースも異なる中、社会人マーケットの開拓を目指す取り組みには「正解」や「定石」のようなものは考えられないが、だからといって立ち止まってはいられない。そこでこの連載では、それぞれの方法で社会人に向き合って試行と探索を行う先駆的な取り組みをレポートしていく。「経営は総合的なものです。既存のディシプリンに分かれた教員それぞれに教育内容を任せ、その全体としての統合は学生に任せる…それは経営リーダー教育として望ましくはないと考えます。だから至善館では、全ての科目において僕たちが科目の中に入っていって、どういう『学びのジャーニー』を組むのか、どういう素材を使い、どんな課題を出すのか、どういうワークをやってもらうのかまで、専任・特任か関わりなく担当教員とガップリ四つに組んで設計しています」そう語るのは、2018年に開学した大学院大学至善館で教学を担当する吉川克彦副学長だ。「至善館の母体となっているのは、学長・理事長の野田智義が経営者の育成を目的に2001年に設立したNPO法人『ISL』です。そこでは、MBAのビジネススキルだけ伝えても未来を拓くような経営リーダーは育たないという問題意識のもと、様々な試行錯誤を続けてきました。その実績を活かし、ビジネススクールの新たな形を創ろうと開学したのがこの大学院なのです」大学院大学至善館副学長・理事・准教授吉川克彦 氏英語クラス「戦略手法と戦略思考」コースの授業風景。至善館には英語クラスと日本語クラスがあり、在籍学生全体の35%を外国人学生が占める(2019年撮影)教育目標「最初の卒業生が出てから3年、まだ道半ばではありますが、社内で構想を経営陣にぶつけ自らのイニシアチブで新たな事業を開始した方、起業してその意義が社会的に認められるようになった方など、卒業生という形で成果が見え始めています。学生は企業派遣と個人入学半々ですが、継続派遣してくださる企業も多いですし、個人の応募も徐々に認知が高まり、応募につながっている手応えがあります」学生の平均年齢は35歳前後。既に企業の中で活躍の経験を持ち、学習意欲も高い。しかし、だからこそ抱える課題があるという。「自分が担っているファンクションで懸命に考え成果を上げてきた人々に、その視座から離れ、事業全体や社会全体という観点で考えられるように促すのはものすごく大変。まずは、自分の今の視界が限定されていることに気づいてもらい、より広く、深く学ぶ動機を作らないといけない。一方で、自分自身の経験や、培ってきた価値観、信念に立脚して考える必要もある。当事者として頭に汗をかいて考え抜いて、そしてそれを本音で語れないと人を動かすことなんてできませんから。そこで、授業の中で常に問うようにしているのは、『あなたはどう考えるのか』『あなたならどう行動するのか』プログラム全体における学生評価・コメント位置づけ授業でのレポート等アウトプット企業からの社会環境の フィードバック変化授業の設計・アップデートのプロセス【1年目】科目設計担当教員学長・副学長【2年目以降】科目の更新・改善担当教員学長・副学長各科目の担当職員大学院大学至善館 イノベーション経営学術院イノベーション経営専攻シリーズ リカレント教育最前線 ②ビジネススクール教育の変革を目指し全ての科目で担当教員と学長・副学長が対話し授業を設計

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