65ライフサイエンスにデジタルを掛け合わせて新たな専門教育を展開する獣医学部 獣医学科教授 村上 賢 氏広げることができました」と話す。できるだけ多くの学生にデジタルデータの扱い方を身につけてもらうことが目的だという。そうしたアプローチが、今後の生命科学分野で中心的になってくるはずだとの見立てだ。菊水氏も、「優秀な家畜をどう掛け合わせて品種改良するか、あるいはどう育成するのかといったプロセスはこれまでベテランの経験値に依存していましたが、遺伝情報や環境情報の掛け合わせによって解析が可能になっている。どう育ててどう管理すると発育が良いか、データ分析をもとにした飼育が可能になれば、働き手の生産性向上にもつながり、産業構造そのものの変革につながるインパクトがあります」と話す。ほかにも昨今、野生動物による鳥獣被害は数億円単位の損害に拡大しているが、動物の移動経路や原因等の詳細解析ができれば、防御策を講じることができるという。獣医臨床教育の現場でもデジタルシフトが起こっている。「昨今は動物愛護の機運向上等の影響で倫理規定が厳しくなり、動物の生体実験を行うことが難しい。学生が実感値を持って知識修得していく機会が少ない中で、どうやって外科医を育成するかという問題があります」と高木氏は述べる。こうした状況に対し、高木研究室ではVR技術を用いた獣医外科学実習を2020年からスタートした。これは360度カメラで撮影した手術動画とVRゴーグルを利用し、外科手術をベストポジションで見ることができるシチュエーションを創り出したものだが、こうした取り組みで副次的な効果もあった。「当該実習を受けた学生かリクルート カレッジマネジメント236 │ Apr. - Jun. 2023獣医学部 動物応用科学科教授 菊水健史 氏獣医学部 獣医学科教授 高木 哲 氏による新たな価値創出データサイエンス(DS)教育の最前線麻布大学は、2022年度文部科学省「デジタルと専門分野の掛け合わせによる産業DXをけん引する高度専門人材育成事業」に、「最先端ICTによる動物・生命系デジタルデータを活かす産業界フロントランナー育成のための教育推進事業」が採択された。その背景・趣旨等について、申請を担当した村上 賢教授、菊水健史教授、高木 哲教授にお話を伺った。同大学は1890年設立された東京獣医講習所を起源とし、「学理討究と誠実なる実践」を建学の理念に掲げる大学だ。2020年に迎えた130周年を機に教育改革『麻布未来プロジェクト130』として、5つの改革を展開している。そのうちの1つ、「データサイエンス教育の推進」が、今回の採択プログラムの背景にあるという。獣医学・動物科学領域の専門教育に加え、当該領域で蓄積されている大量のデータを活用できるよう、次代を見据えてICT教育を強化するとの内容だ。村上氏は、「微生物、動物行動学、遺伝学等では測定機器が高度化し、大量のデータがとれるようになってきています。それを活用する人材の育成は急務。また、そうした状況を研究で体験することはあっても、必ずしも学部生全員が同じ水準で体験するわけではない。今回の採択により支援された予算で、実習機器を拡充し、学生の教育機会を事例report_11 麻布大学デジタルと専門知識の掛け合わせで次世代教育へのパラダイムシフトを図る
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