67デジタルならではの地域課題解決で地域に貢献する早期の社会接点で学生の教育成果を最大化するントランナーを育成する教育プログラムを構築することは自然な流れであったという。こうした教育のデジタルシフトについて、特定の事業というより大学全体の動きを支えるために申請・採択されたのが本事業というわけだ。また、こうした動きが新たな展開にもつながりつつある。動物行動学を専門とする菊水氏は例を挙げる。「本学近くの卵農家さんで、鶏の福祉を考えて平飼いしているところがあります。工場型養鶏所に比べるとコストは高いですが、付加価値は高い。こうした価値を可視化できればもっと買ってもらえるかもしれないと、今回購入した『旨味センサー』を用いて味を解析し、どんなお店で使われているか等とともにまとめてマップを作っています。また、河川や沼の水質のDNAを調べると、どんな生物がいるかが分かります。それをプロットして小学校に提供し、子ども達の夏休みの自由研究に使ってもらっています。ほかにも、『人と犬の関係』を専門的に扱う授業で、犬に優しい商店街を作ることで人も集まるのではという実証実験を1年生が主体になって行っています」。大学の教育や実習で得たデータを地域課題に利活用する動きを増やす意図について、菊水氏は「社会への価値実装を学生が行うことで、学生がコミュニティーに入っていくきっかけにもなり、座学だけとは全く違う成長をします。研究室単位ではなく、大学教育としてそれを整備することで、多くの学生に行き届く価値になる。本学はそうした機会の提供を最大化することに注力しています」と話す。こうした動きは、同大相模原市 植生マップ作成演習の様子学が進める「出る杭プロジェクト」でも見ることができる。これは低学年の段階で本物の研究に触れ、自らのテーマに即した研究を大学がリソースや機材等を含めて支援していくものだ。村上氏は、「早い段階で社会接点を得て、社会実装の機会を得ることで、学生の成長実感のみならず、リテラシーや主体性が圧倒的に伸びていきます」とその狙いを語る。こうしたスタンスは麻布大学全体に通底するものであるようだ。それにデジタルを載せることで、より高い教育成果を狙うのが同大学の次世代へのチャレンジと言えるだろう。村上氏は、「本学に入学してくる学生は、基本的に動物への関心は高いのですが、それを本当に専門教育で伸ばすことができていたのかは真摯に検討する必要があります」と話す。「大学も生き残りを掛けており、今までの学力偏重型入試だけでは、本当の教育価値を発揮できないかもしれない。関心が高い学生に知識をまず詰め込むというやり方だけでは、学生は萎えてしまう。だから、早めに社会接点や貢献プロセスを経験させ、社会で活躍できる人材になるために、自ら学び進めるスタンスを培ってほしい」と話す。やりたいことを持っている学生を集めて伸ばす環境を作ることが、大学が生き残る一つの方策ではないか。各種取り組みの教育成果が高まるのか、その結果学生が実際に成長し、活躍できる人材になっているかを見るには卒業後の状況も含めた追跡調査が必要であり、その検証も同時並行で議論している。また、本事業の補助金は採択されて終わりではなく、ほかの大学にも広めるためにグッドプラクティスを創っていく意図が強いという。「日進月歩の最先端の教育をいかに社会に還元できるか。生物系では本学が筆頭と言われる状態を作っていきたい。デジタルはそのための有力なツール」と高木氏は力をこめる。産業界に求められる人材育成のため、デジタルを積極的に大学教育に取り入れ、デジタルならではの価値で社会課題を解決し、そのプロセスで学生の成長を最大化する。麻布大学の挑戦に今後も注目したい。リクルート カレッジマネジメント236 │ Apr. - Jun. 2023(文/鹿島 梓)
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