81現役世代に大きな負担がのしかかるだけでなく、社会・経済を誰がどう支えるかという深刻な問題に直面する。その兆候は既に様々な分野に現れている。このような状況を受けて、既に2021年4月に改正高年齢者雇用安定法が施行、70歳までの就業確保措置を講じることが努力義務とされている。また、外国人労働者の確保も課題となるが、2040年時点で目標GDP到達に必要な外国人労働需要量を674万人とした場合、42万人不足するとの推計もある(2022年2月3日株式会社価値総合研究所「2030/40年の外国人との共生社会の実現に向けた調査研究–暫定報告–」)。外国人労働者に選ばれる社会や職場たり得るかが問われている。バブル経済崩壊後の長期にわたる経済停滞により、世界のGDPに占める我が国の割合は1995年の17.6%から2021年時点で5.1%まで低下し、1人当たり名目GNI(国民総所得)も23位まで大幅に順位を下げている(2023年1月外務省「主要経済指標」)。GDPで見た世界経済の中心が欧米からアジアにシフトし、2060年には世界経済の約半分をアジアが占める中、世界経済に占める日本の割合は3.2%にまで低下するとの見通しも示されている(内閣府ウェブサイトより)。内閣府が2018年度に実施し、2019年6月に公表した「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」によると、自国の将来は明るいと思うかの問いに対して、『明るい』(「明るい」「どちらかといえば明るい」の合計)と回答した日本の若者の割合は31.0%であり、調査対象7カ国で最低になっている。ちなみに『明るい』と回答した割合は高い順に、アメリカ(67.6%)、スウェーデン(62.0%)、ドイツ(60.7%)、イギリス(56.7%)、フランス(50.6%)、韓国(41.0%)である。ただし、日本に関しては2013 年度調査より『明るい』が2.2ポイント上昇し、『暗い』(「暗い」「どちらかといえば暗い」の合計)が5.5 ポイント低下していることを付け加えておきたい。もう一つ、猛烈な速度で進化するデジタル技術がもたらす変化とどう向き合うかという問題がある。本連載においても2016年にはAI、2021年にはDXを取り上げ、これらが大学に問いかけるものについて考えてきた。現在、この分野で頻繁にその用語が登場するのはメタバースであり、2022年11月の公開以来、話題を集めているのは米国OpenAI社が開発したChatGPTである。前者については、米国Facebook社が社名をMeta Platforms社に変更したこともあり、一気に期待が高まった。メタバースはコンピュータネットワーク上に構築された3次元の仮想空間を意味し、アバターと呼ばれる自分の分身を介して、仮想空間内で会議をしたり、交流したりできるプラットフォームである。教育分野でも様々な事情で学校に通えない児童・生徒の支援等への活用が期待されている。2030年の世界市場規模100兆円との予測がある一方で、概念自体の曖昧さを含めてその可能性に疑問を呈する声もある。後者のChatGPTは、質問を入力すると、AIが自然な文章で答えるサービスであり、質問の仕方如何では学生本人が書いたものと見分けがつかないレポートの作成も可能と言い、大学もその対応を迫られている。デジタル技術の革新により一般の人々が想像すらしていなかったツールやサービスが次々に生み出され、評価も定まらないうちに、人々が巻き込まれていく。これらがもたらすベネフィットは総じて大きいが、同時に様々なリスクが伏在し、いずれ多大な損失をもたらす可能性もある。このような状況をどう理解し、対処していけば良いのか、この時代を生きる私達に突きつけられた難問である。地球温暖化と国際情勢、日本の未来、デジタル社会という順に見てきたが、我が国はこのような変化にどれだけ正面から向き合い、問題の解決に真摯に取り組んできたのだろうか。少子化、財政と社会保障、エネルギー、食料自給など、国が結果として先送りを続けてきた問題は少なくない。スイスのIMD(国際経営開発研究所)「世界競争力年鑑」の2022年版(2022年6月公表)によると我が国の総合順位は63カ国・地域中34位、アジア・太平洋地域でも14カ国・地域中10位となっている。デジタル技術がもたらす変化とどう向き合うか大学自らが諸問題に向き合い未来を構想する時期
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