83員による限られた連携に留まったりするケースが多いように見受けられる。高校教育までの実態を知らず、また学生の進路先となる社会との濃密な対話なしに、どうして大学教育のあり方を考えることができるのか。そのことを厳しく問い直す必要がある。横のつながりとは学問分野を超えた連携・協働のことである。「第6期科学技術・イノベーション基本計画」では、あらゆる分野の知見を総合的に活用して社会の諸課題への的確な対応を図ることが不可欠との認識に立って「総合知」を提唱している。学際性や文理融合は長く問われ続けてきた課題である。専門性の深化に裏打ちされた融合でなければならず、また、研究者個々の興味・関心に基礎を置くことを重視する必要があるが、一定の進展も見られつつある。これらの動きをどう後押しし、拡げていくか、大学の研究のあり方に関わる大きなテーマである。四つ目は、「自由のための規律」である。前述の総合知を含め、大学における新たな知の創出への期待は高まる一方である。「学問研究の自由」はその基礎であり、引き続き重視されなければならない。しかしながら、責任を伴う自由であり、単に既得権を守るための自由であってはならない。そのために、教員や教員組織をどう規律づけるか、そしてそのことを社会にどう説明するかは大きな課題である。五つ目は、「自前主義からの脱却」である。大学が保有する経営資源は限られている。特に中小規模の大学の資源制約は大きく、質の高い教育研究を展開しようとすれば、外部資源に頼らざるを得ない。大規模大学であっても多様な社会的要請や人材育成ニーズに応えようとすれば自校の資源だけでは限界があるだろう。大学の内と外を隔てる「境界」の意味とあり方を問い直す必要がある。これら5つの課題に取り組むにあたって、大学は教職員にとって「働きがいがあり働きやすい」職場でなければならない。受験生に選ばれるかだけでなく、働く場として選ばれ続けるかも問われている。そのためにもダイバーシティとDXは最優先の課題である。トップが強力に旗を振り続けなければならず、教職員も当事者として主体的に取り組む必要がある。「企業では考えられない業務が依然として多い」と言われ続けている現状を重く受け止め、本気で変えていかなければならない。国も政策のあり方を見直し、大学の主体性・自律性に委ねる部分を大幅に拡大すべきである。これまでの施策が高等教育や学術研究の発展に如何なる成果をもたらしたのか、客観的に検証する時期に来ているのではなかろうか。10兆円ファンドを原資とする国際卓越研究大学の仕組みや第211回通常国会に提出された私立学校法改正については、その経緯や実効性を含めて疑問の声が多い。改革に後ろ向きの人々からのものではなく、むしろ進んで改革に取り組む人々からの声であることを強調しておきたい。日本経済の将来の成長率が年率1%すら難しいとの見方もある中、国際卓越研究大学に年率3%の成長を求めることをどう理解すれば良いのか。誰のための何を目的とした改革で、その政策の成果を誰がどう評価するのか、大学関係者のみならず国民に簡潔明瞭に説明できるだろうか。国の関与や政策が大学の現場から活力を奪わないことを願うばかりだ。物事がある一定の条件(閾値)を超えると一気に変化が加速する現象を意味するティッピング・ポイント(tipping point)。今地球温暖化に関して、その転換点がいつ訪れるかに関心が集まっている。日本の社会・経済に係る諸問題も、転換点に達し、変化が一気に加速し、社会に深刻な打撃を与えることも危惧される。だからといって諦めてしまっては事態をさらに悪化させるだけである。日本には他国にない強みも数多い。問題に正面から向き合いつつ、強みを磨き上げれば未来は切り拓けるはずであり、大学こそその先導的役割を果たすべきである。その志と見識が大学に問われている。「自由のための規律」と「自前主義からの脱却」全ての土台は「働きがいがあり働きやすい」職場
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