カレッジマネジメント237号
19/79

19まとめ大学は政策の流れを総力特集 未来をつくるデジタル人材と教育デジタル人材とは、デジタル技術を使ってイノベーションを起こせる人材である。イノベーションの定義は2020年の科学技術基本法改正により、経済的価値創出から社会的価値創出へと変容した。そうした社会的価値創出ができる人材こそがSociety 5.0社会の担い手として求められているのであり、各教育機関はそうした人材育成のための教育設計をする必要がある。CSTIが初等教育から高等教育まで広く提言の視野を持っているのはそのためだ。たとえ現在の文系にセグメントされる学問領域であっても、社会基盤の変容を見据え、デジタルを踏まえた内容にチューニングしていく必要がある。その背景にあるのは、国作りにおいて工業化社会のルールが継続しており、現代・将来の課題に対応した価値創出の仕組みが作られていないという社会デザインの課題だ。だから、デジタル人材育成の文脈においては、文科省のみならず、内閣府や経産省がタッグを組んだ様々な動向を理解する必要がある。ここまでの政策整理からも分かるように、人作りだから文科省、ということではなく、政府が一丸となって議論する全体に係るテーマなのである。また、こうした現状を打破するには、仕組みの変更だけではなく、教育によって我々の思考そのものを未来志向でシフトチェンジしていく必要がある。それは、同質化社会の中で絶対解に速くたどり着くリテラシーではなく、多様性の中で自分と異なる他者をどう捉えるのか、絶対解がない状況に際して、解ではなく課題から発想して必要なマイルストーンをどう設計するのか、多様な解が混在する状況でどう俯瞰・構造化・抽象化できるかといった思考への変容だ。同時に、具体的な社会的価値を創出するプロセスを描くスタンスの変容も必要となる。こうした態度は市民としての「デジタル人材」の基本スタンスであり、日々の生活や教育によるアプローチでしか培うことができない。「こうしたマインドセットは民主政(デモクラシー)の質そのものにも関わっているからこそ、公教育で向き合う必要がある」と合田氏は述べる。新しい社会像の実現に向けて、大人が持つ知見を分け与える教育から脱却し、若者が予測不可能な社会で自ら学び自ら生き抜ける力を身につけるための教育へ。どんな学問であっても、レバレッジとしてのデジタルの有効性は否定できない。「是非こうした流れを、高等教育自体を考え直す機会と捉え、未来志向で臨んで頂きたい」(合田氏)。「アイディアとしての『Society 5.0』と教育政策―官邸主導の政策形成過程における政策転換に着目して―」※1 教育制度学研究27(2020東信堂)掲載 ※2 小誌232号掲載  ※3 小誌236号掲載 https://souken.shingakunet.com/higher/2022/04/post-3268-15.htmlhttps://souken.shingakunet.com/higher/2023/04/interviewsdgs.html未来志向の改革の契機に新しい社会像の実現に向けて大学はデジタルの有効性を組み込んだ未来志向の改革を

元のページ  ../index.html#19

このブックを見る