カレッジマネジメント237号
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21総力特集 未来をつくるデジタル人材と教育小林 現在、デジタル人材の育成が急がれていますが、そもそもの時代的・社会的背景にはどのようなことがあるのでしょうか。石原 日本においては、2018年にDXというワードが頻出するようになりました。しかしながら、実際にはDXへの準備は進んでおらず、「DXは重要だろうが、我が社は直接関係ない」と考える業界や企業が多かったと思います。ところが2020年に始まったコロナ禍で、デジタル化やDXは全ての業界に関係があるということが浮き彫りになり、一気に誰しも避けて通れない課題として突き付けられたわけです。この機に変革しなければ市場競争に負けてしまうという意識が急激に高まったのが2020年です。しかし、いざDXに取り組もうとなったその時に全ての企業に立ち塞がった壁が、「誰もデジタルを分かっていない」ということ。DXの構想をダイナミックに描き、スピーディに実装する人材を育成してこなかったということに気づいたというわけです。小林 少し前まではデジタルに関わるのは一部の人という認識があったと思いますが、多くのデジタル人材が必要になったきっかけはあるのでしょうか。石原 通信技術の飛躍的な進化とクラウドコンピューティングの誕生によって、一気にデジタル化の範囲が広がったということなのではないでしょうか。かつては企業や組織が、自前のシステムやインフラを独自に開発して運用するという世界でしたが、クラウドという「WEBの向こう側にある、外部の汎用ツール」を使い、重くて大きなデータも処理できるようになりました。そしてもちろん、クラウドが機能する前提となっているのがWi-Fiや5G等の通信環境の進歩です。小林 それまでは開発言語や機械に詳しい人がIT人材の要件だったわけですが、クラウドや通信技術の進化でスムーズにやり取りできるようになり、求められる人材が変わってきたわけですね。石原 これまでは、サーバーを構築してオリジナルなシステムをSIer(システムインテグレーター)に発注し、何億円という費用を掛けて、数年にやっと1回というサイクルで、自社オリジナルのシステムを構築するという方法しかなかったのですが、クラウドであれば、その提供者側が新しい機能を次々と搭載・刷新してくれる。つまりシステム開発の概念が大きく変わったことで、ビジネスの生産性が大きく向上したわけです。ITに精通した人をどのように処遇し、評価していくかというところに、日本のデジタル化を進めるうえでの課題があると思います。(吉武)デジタルが分かる人材を、コスト削減のための推進者だという考えが抜けきれない、それが日本の状況です。(石原)なぜ、デジタル人材の育成が急務なのか

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