カレッジマネジメント237号
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22小林 吉武先生は、企業と大学の両方で改革に携わってこられましたが、システムのあり方等もそうですが、時代の変化についてどのように見ていますか?吉武 私が勤務していた新日本製鐵もそうですが、昔の日本企業はシステム化に貪欲で、海外と比較しても進んでおり、ITやソフトウエアの知識を持ちながら、企業の業務に精通している優秀な人材が活躍していました。しかし、システム部門の分社化を進めたことで、業務を理解したうえでシステムを変えていける人材が自社内にいなくなり、外に丸投げする流れが加速しました。さらにその結果として、外部の技術革新と業務の変革、2つの距離が離れてしまった。かつて先進的だった日本が、DXに遅れを取った背景はここにあると考えています。小林 なぜ分社化が進んだのでしょうか。吉武 日本においてIT部門は特殊な位置にあり、経営から評価されづらい。評価されなかった彼らは、自らが主役になるために別会社を作っていったのです。しかし、システム部門を重用し評価する企業は、ITを活用したビジネスプロセスの革新が進みやすいのが実情です。ITに精通した人をどのように処遇し、評価していくかというところに、日本のデジタル化を進めるうえでの課題があるのではないかと感じています。石原 日本では、システムはあくまでコスト低減のために導入するものであり、儲けるためにシステムを使おうという発想がありません。ですから、システム部門の成果も「どれだけコスト削減できたか」という観点で測られてしまいます。システムのこと、デジタルのことが分かる人材は、あくまでコスト削減の推進者だという考えが抜けきれない。それが日本の状況だと思います。小林 石原さんは、海外と比較したときの状況はどう見ていますか?石原 日本は立ち遅れたままで、巻き返しを図れていないと考えています。スイスで行われるダボス会議(世界経済フォーラムの年次総会)で2018年から4年にわたって「リスキル革命」と題したセッションがあり、デジタル人材の不足や、デジタル時代において大量のテクノロジカル・アンエンプロイメント(技術的失業)が生まれる危機感から、多くの人をいかにリスキルするのかについて議論されています。アメリカでも、400以上の会社で1600万人リスキリングの機会を提供すると明言されています。顧客の感情を察知する観察力と、その理由を考える想像力。デジタルとは一見関係なく思えるが、実はデジタル人材には、最も大事なものです。(石原)諦めずに変革するマインド。業務を熟知し、何を変えれば良いかを提言できること。変革を実現するための最先端のデジタル技術を分かっていること。この3つの武器が若い世代に必要です。(吉武)海外と比較して遅れているのか?

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