8 大学の対応45総力特集 未来をつくるデジタル人材と教育かについて考えなければならない。現在でも入試に数学を課す学部と、そうでない学部とにおいて高校の数学を身につけている度合いに差があることは体験されていることと思う。情報科でも残念ながら同じようなことが起こる可能性がある。では、「情報Ⅰ」を教える高校の先生についてはどうだろうか。情報科の免許を持たない免許外教科担任が問題になっていたが、2023年度にこの数は80人程度に減少し、2024年度には0になる見込みである。実は、多くの都道府県では、情報科の免許を持つ教員は必要数以上に存在し、その配置を適切にすることで免許を持つ教員が情報科を教えることが可能になる。また、情報科教員の新規採用も全都道府県で行われるようになった。また、各都道府県における情報科教員向けの研修も充実してきており、プログラミング、データ活用だけでなく、情報デザインに関する研修も行われるようになってきた。文部科学省でも、「高等学校情報科に関する特設ページ」を設置し、教員研修用教材、実践事例、動画等を提供している。民間でも(一社)デジタル人材共創連盟等が、企業等と連携して講師派遣、学習コンテンツの提供等を行っている。情報の授業に企業等の外部人材が参加したり、免許を持つ教員が複数の学校を兼務したりする取り組みも行われている。情報に関する課外活動では、プログラミングやデータサイエンスに突出した才能を示す生徒も現れてきている。さらに、情報科に関する教材等の対応も進んでいる。現在、各社から「情報Ⅰ」の問題集等が発売されており、今年度後半に向けて受験用の実践問題集も発売される予定である。スタディサプリ等の動画教材も、ベーシックコースが公開されており、来年度に向けて他教科と同様の受験編が公開されることになるだろう。他教科にない教材としては、インターネットで提供されるプログラミング環境を組み込んだ教材等が挙げられる。予備校等の対応も進んでおり、模擬試験等も実施される見込みである。2022年春からの実施状況としては、詳細な調査が行われたわけではないが、授業は順調に行われ、入試に対する環境も整いつつあるといってよいだろう。これらの状況は、私自身が出版社及び教材会社の顧問、社団の代表理事として感じているものである。2025年度に大学に入学する者の多くは「情報Ⅰ」を履修しているので、大学のカリキュラムもそれを前提としたものになるだろう。ただし、浪人生や一部の定時制高校の卒業生等は、「情報Ⅰ」を履修していないので、そのような学生への対応も必要になる。多くの大学で新カリキュラムの開始を2025年度に設定して準備が進められている。高校情報科の内容は学習の基盤となるものであるから、新カリキュラムにも大きく影響する。大学全体のFD等で教職員全体に浸透を図るようにするとともに、専門科目も含めてプログラミング、情報デザイン、データ活用等の科目の内容変更、該当する教員の研修・採用も進める必要があるだろう。大学入学共通テストの「情報Ⅰ」を使わない場合、使う場合、個別試験で「情報Ⅰ」を出題する場合、「情報Ⅱ」まで出題する場合で、入学する学生の情報活用能力に大きな差がつくことが予想される。これは、大学教育の出発点をどこにするかという問題であり、卒業時の資質・能力にも関係する。大学は、これを高校に入試という形で示さなければいけない。また、企業等もこれに注目している。情報科の入試によって大学の人材育成の姿勢が問われることになる。現行学習指導要領で教科の内容が変わったのは情報科だけではない。例えば、「地歴総合」といった全く新しい科目が設置された。「総合的な学習の時間」は、高校では「総合的な探究の時間」や「理数探究」に変わった。国語科には「論理国語」、英語科には「論理・表現」といった従来にはない科目も作られた。数学も「ベクトル」等、履修する科目に変更があったものもある。また、学び方も大きく変わっている。これからの時代を生きるための資質・能力を育むために、主体的・対話的で深い学びが重視され、1人1台の情報端末を前提とした個別最適な学びと、協働的な学びの往還が推奨されている。大学教育としては、高校までの学習という従来の前提条件が大きく変わったことを認識し、これについて調査、対応する必要がある。これは、大学入学後の授業内容、カリキュラムの変更だけでなく、大学入学共通テストで採用する科目、個別テスト、総合選抜、面接等にも影響する。この変化を前向きに捉えて大学全体をupgradeするか、時代の変化に翻弄されるか、大学のビジョンと経営が問われている。
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