カレッジマネジメント237号
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47学外資源を活用しながら新市場を開拓総力特集 未来をつくるデジタル人材と教育スキルが違うのだから、他の受講生と自分を比べて落ち込む必要はない』というメッセージを出しました。また、進度が遅れ気味の人をサブ講師が個別サポートしたり、チャットシステムを使って疑問点を解消したりする等の仕組みも用意しています。特に過去に開講していたADPISA-Fでは、手厚い個別対応を行っていました」(山口氏)ADPISAのプログラムでは、一部、オンライン型学習プラットフォーム「Udemy」のコンテンツを利用している。ADPISA-Fでは、受講生の習熟度や就労を目指す職種等に応じた講座を受講。また、女性向けライフデザイン科目を提供しつつ、チューターが個別にキャリアコンサルティングを行っていた。このように、各受講生に学習内容を最適化しようとする姿勢が、ADPISAの特色の1つなのだ。一般的な社会人向け教育とは異なり、大学教育の中にしっかり位置づけられている点もADPISAの特徴。「ADPISAは『履修証明プログラム』。学修者には学籍もあり、図書館をはじめとする大学の資産も正規の学生と同様に利用できます。履修証明制度は教育基本法にも明記されていますが、歴史が浅いこともあって知名度はまだまだ低いのが現状です。ADPISAは正規の学習プログラムなのだと学内を説得するのにも時間がかかりましたね」(宮川氏)「18歳人口が減少する中、大学の置かれた状況は決して楽観できません。一方、日本では低成長が続いていて、企業が人材育成予算を捻出しづらい傾向にあります。そのため、社会人向け教育は大学にとって将来有望なマーケットと言えるでしょう。ただし、そこではオンライン講座を展開する企業等との競争が生じるとは思います」(宮川氏)その時、大学にとって強い武器となるのが「体系化の力」だと宮川氏は考えている。表面的な事象にとらわれず、本質を資格取得、転職等 中期的目標の設定個々の状況に対応した受講科目の選定安心・安全な学びの場作りOB/OGによるメンタリング各科目のふりかえり支援定期的なフィードバックオンデマンド科目質問対応見抜いて知識を体系的に捉える能力の醸成は大学の強みであり、そこが教育コンテンツのみを提供する企業との差別化ポイントになる。しかし、大学における社会人向け教育は、存在やその価値が産業界に十分伝わっているとは言えない。そこで、大学ならではの強みを発揮しながら社会とつながりを持つ活動が必要だと、宮川氏は言う。「欧米の企業が多くのIT人材を雇用し、社内で開発を進めているのに対し、日本企業では外部の開発会社に依頼するケースが目立ちます。そのため、開発時にムダなコミュニケーションコストがかかりますし、開発スピードも高まらないのです。そこで一般企業に、自社でIT人材を育てる必要性を分かってもらうことは、我々にとって重要な課題なのです。例えばある一般企業に向け、他の大学や教育会社を巻き込みながら、オーダーメイドの教育プログラムを提供する。そうして企業を変革に導いて成功事例を作る。そういう展開が必要かもしれません」(宮川氏)一方、受講生の多様なニーズに対応する努力も続けていく。例えば2023年度のADPISA-EとADPISA-Mについては、新たに「コーチ」と呼ばれる役職を置く。「これは技術とキャリアの両分野にまたがって、受講生にアドバイスする役割です。ADPISA-Fの時にはITに詳しくないキャリアアドバイザーがサポートしていた点が課題だったので、今回はITに詳しい人とキャリアコンサルティングの技術を持つ人の両方を用意し、受講生に伴走させる予定です。また、修了生のコミュニティー作りも検討しています」(山口氏)受講生それぞれの状況に応じ、適切な目標設定を行う。その上で、学外とも提携しながら受講前から修了後まで手厚いフォローを行うことを、ADPISAの運営チームは目指してい(文/白谷輝英)るのだ。 全体ふりかえり支援ADPISA-E、ADPISA-Mで新設された「コーチ」は、受講前、受講中、修了後の各段階で、様々なサポートを行う。今期から新たに取り組まれているのが「OB/OGによるメンタリング」。プログラム修了者や提携企業から話を聞き、キャリアアップ等に役立てようと模索している。修了後の目標設定と学習計画づくりの支援受講生同士のコミュニティー形成図2 ADPISA-E受講生へのコーチングによる個別支援受講前キャリアコーチ/技術コーチ個々の受講者受講中修了後

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