カレッジマネジメント237号
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48社会人を含めた広範な層に学びの場を提供企業・受講生からの評価は上々工学系研究科長・工学部長付属人工物工学研究センター/教授加藤泰浩氏東京大学大学院工学系研究科・工学部は2022年、「メタバース工学部」を開講した。目指すのは、全ての人が工学や情報を学んだり、工学キャリアに関する情報を得られたりする場の提供だ。既に、中高生と保護者を主な対象とする「ジュニア工学教育プログラム(ジュニア講座)」と、社会人を主な対象とする「リスキリング工学教育プログラム(リスキリング講座)」が開講中。ジュニア講座については多くのメディアで報道され注目を浴びているが、今回は、社会人DX人材の育成により社会に大きなインパクトを与えそうなリスキリング講座を取り上げる。リスキリング講座では当初、人工知能研究の第一人者である松尾 豊氏の「グローバル消費インテリジェンス(AI講座)」等4講座を開講。2023年度春には6講座に増やし、秋にはさらにプログラムを充実させる予定だ(図1参照)。開講講座の選定に際しては、産業界からの意見を広く募ったと、工学系研究科長・工学部長の加藤泰浩氏は振り返る。「2017年に工学系研究科長に就任された大久保達也先生と、私の前任で2020年に工学系研究科長に就任された染谷隆夫先生が、社会連携講座を推進する基本方針を立てました。そして、染谷先生や松尾先生をはじめ、私達が多くの企業を回り、経営者からリアルなニーズを聞いていっ工学系研究科 技術経営戦略学専攻教授松尾 豊氏工学系研究科物理工学専攻工学系研究科化学システム工学専攻教授教授齊藤英治氏脇原 徹氏たのです。その結果、コロナ禍に直面しDXの課題を抱える企業が多いことを実感。松尾先生のような『看板教授』がDXを担う人材をリスキリングする講座を提供できれば、企業のニーズに応えられる有意義な場となるだろうという手応えを得ました。それが、メタバース工学部を設立する1つの原動力になったのです」(加藤氏)会員企業は3グレードに分かれていて、グレードが高いほど多くのメリットが得られる。2023年5月現在、プラチナ会員7社、ゴールド会員5社、シルバー会員7社が参画中だ。新設当初からここまで多くの協力を得られているのは、東大工学部で最先端の研究に従事する教授達が、企業のリアルな要望を普段から丹念に聞き取り、それに応える講座を展開してきたからだろう。「大学が蓄積している最新の知見を共有し、そこからビジネスに役立つヒントを得ることは、企業にとって有益なはずです。その結果、多くの企業が成長すれば日本全体の閉塞感を吹き飛ばし、活性化につながると私達は信じています」(加藤氏)実際、会員企業からの評価はかなり高い。講座修了後に行ったアンケートによれば、受講者からの評価は5段階評価で4.3程度と高かった。受講者を送り出す企業側からも好評の声が多く届いているという。「気づきを得たこともありました。受講生はビジネスの現場で活躍されている方々なので、例えばアントレプレナーシップ講座等は得意なのだろうと予測していたのです。ところが、新規事業の経験者はCASE2DXの課題を解決する人材のための企業のニーズを捉えたリスキリング講座東京大学大学院工学系研究科・工学部 メタバース工学部

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