69問題意識を共有し「自分ごと」として取り組む島根県にあるものを活用していくことはできません。コンソーシアムの施策は地域とともに人を育て、地域も活気づく好循環を生み出しています。学生、企業それぞれの成長を促す機会になり、うまく機能しています」(松崎氏)こうしたコンソーシアムの活動の成果は、数字にも表れつつある。「しまねで活躍したい若者」を増やし、持続可能な地域づくりの実現達成に向けて設定されたKPIである「県内高等教育機関の県内就職率」も順調に達成している(図3・4)。その背景の1つには、島根県として人口減少対策と人づくりを最重要テーマとし、多くの予算を投下しているということがある。また、コンソーシアムには企業から多くの賛助金による支援も得られている。また、コンソーシアムの運営は、関係者の認識をいかに高め、巻き込んでいけるかもキーになる。「取り組みが本当に実効性があるのだ、という認知が進んでいけば、『大変だがそこに力を入れていくべき』という地域共通の認識へと発展していくと思います。そうなると色々な取り組みがさらに実行しやすくなるのではないか」と松崎氏はいう。「学生や教員、企業や地域に協力を得るときに、自分ごととして関わる人が増えていくことが大切」と松崎氏は語る。特に大学では教員の協力も大切な要素だ。島根大、島根県立大ではコンソーシアムの活動の認知が高まるにつれ、「学部から人を推薦しますよ」と、自分のできる範囲で支えようという教員が少しずつ増えているという。また、活動に長く関わっている教員は、表面的に数字の達成することだけにイベントや事業をするのではなく「何のためにやるのか」という本質を捉え、同じ方向を向いて活動を推進する役割を担いつつある。「問題意識を共有し、自分ごととして動いている人が増えてきたこと、これによって今はコンソーシアムがうまく動いていると感じています。今後はその後継者をいかに増やしていくか。関わる人々が少しずつバトンタッチしながら仕組みをつくっていくとになると思いますが、属人的ではなく、組織的に増やすシステムをつくれるかは次の課題でもあります」(松崎氏)島根の産業側から見てみると、やはり必要な人材像についても明確になってくる。第1次産業の農業、林業、水産業では高齢化が進む中、DXによる効率化、暗黙知の継承を進める必要がある。第2次産業では地場産業として鉄鋼業の歴史があり、鍛造・鋳物産業といったものづくりが生まれてきた。この分野では、先端金属素材の研究で世界トップレベルの高度専門人材の育成を目指す島根大学の「次世代たたら共創センター」がよく知られている。そのほか、電子デバイス関連の工場も多い。また新型コロナウイルス感染症が拡大した時期には、通信環境の進化によって、地方で遠隔から仕事ができる認識が広がったこともあり、県ではIT関連の県外企業の誘致にも力を入れている。第3次産業では医療や高齢化対策として医師不足が喫緊の課題だ。観光資源としては出雲大社や世界遺産の石見銀山がある。出雲大社の遷宮には多くの観光客も訪れたが、一過型に留まっている。「島根にはいいものがある。しかしながらそれらを有効に活用できていないのが現状です。島根県の優れた資源をうまく使っていくための専門的な知識、課題解決につなげるデザイン力を持った人を増やしていきたい。また、労働人口が少ない中で効率化を図るためにはIT、ICTのリテラシーを持った人材の存在も不可欠です。しかし何にも増して、そういった知識と地域の資源を組み合わせ、チャレンジするような気概を持った若者を育てていくことが大事だと考えています。そこは18歳からの大学入学者だけに頼るのではなく、県外の社会人にも働きかけ、リカレント教育も行う。大学、高専を中心に、高校、中学も巻き込みながら、新しい人流を生み出したいと考えています」(松崎氏)リクルート カレッジマネジメント237 │ Jul. - Sep. 2023(文/木原昌子)
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