カレッジマネジメント237号
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学ぶと働く4070英米の名門大学の全人的教育がモデル同級生のみでない人間関係を築く指導担任制度医学部、歯学部、薬学部、保健医療学部の4学部からなる昭和大学の、教育上の大きな特徴の1つが「初年次全寮制教育」だ。1965年に医学部の男子寮のみでスタートし、現在は、全学部の1年生約600人が、富士吉田キャンパス(山梨県)にある男子寮・女子寮で1年間、生活を共にする。寮の部屋割りは、男子寮2つ、女子寮2つ全て4人部屋で、異なる学部・学科の学生が1部屋に混合して入る。人数の関係で例外もあるが、基本は4学部から各1人となっている。寮室単位での高齢者施設の実習等があり、生活と勉学との関係はいわばシームレス。また、体育祭、学園祭、ハロウィンパーティーなどのイベントを学生が企画・運営することで、同部屋だけでなく、寮内で広く学生同士のつながりができる。久光正学長は、この初年次全寮制教育で養うものを、第一に「チーム医療を進めていくうえで絶対的に必要な、コミュニケーションの力」とする。「4人部屋で他人と一緒に暮らすとなると、意見の違い、趣味の違い、色々なことでぶつかり合う。そこを自ら解決していくことでコミュニケーションを取る練習になると考えています」。他学部生が何を学んでいるかを知る意味もあるという。久光学長は、「全寮制を開始したとき、『チーム医療』という言葉自体はありませんでしたが、同じような気持ちはあり、そこに全人的教育が接続されたと考えております」と言う。当時の上條一也理事長が、ケンブリッジやハーバード等の伝統的な大学が全寮制をとっていることを知り、良い医療人教育のために全寮制を、しかも複数人数を1部屋でと推奨してスタートしたのが当時の経緯という。英米の名門校の全人的・リベラルアーツ的な教育と、昭和大学の建学の精神「至誠一貫」とに通底するものがあったのだろう。「至誠一貫」と全人的・リベラルアーツ的な教育は、初年次全寮制教育の背景となり、チーム医療の基ともなっているようだ。もう1つの教育上の特徴が、教育職員が複数の学生を受け持って生活相談・指導に当たる「指導担任制度」だ。学生全員が対象だが、富士吉田キャンパスでは「教育職員としてというより家族というか、相談役」という関わり方になり、その役割はひときわ大きい。「学生が1学年約600人ですので、1年生で教えている教育職員約30人全員が、約20人ずつ受け持ちます。学生同士で解決しきれない悩み事を指導担任あるいは寮監に相談したりと、同級生のみではない人間関係を深めていくこともできます」(久光学長)。入学式の告辞で久光学長は、優れた医療人に必要なものとして、「深い知識、優れた技術、適切な態度」の3つを挙げ、なかでも適切な態度と、加えて深いコミュニケーションの力を育てるには、初年次全寮制教育がとても効果的だと述べている。もちろん学生に向けたものだが、指導担任にも当てはまりそうだ。特に1年生の指導担任には「適切な態度」学長久光 正 氏をつなぐ昭和大学良き医療人育成に向けて、チーム医療の礎を築く、初年次全寮制教育

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