カレッジマネジメント238号
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労働市場におけるジェンダー不均衡大学では、女性教員・学生ともに数・比率を上げる施策をンダーの視点を取り入れること」を河野氏は説く。「教員が何も意識せずに授業をすると、教員と生徒のやりとりの3分の2が男子と行われているという結果が欧米の複数の国で見られている。日本でもこういった研究を進めて、知らず知らずのうちに男子生徒の経験や視点を標準とみなしていないか常に見直すことが必要。また、イギリスやアメリカで実践されている『女子が興味を持つ算数・数学の授業の仕方』『物理に女子を惹き付けるための教材の作り方』等の研究を日本でも理科教育学や数学教育学の分野で進めていかなければ、根本的な改善にならない」と力を込める。加えて、女子にとって最も身近なロールモデルである理数系教科の女性教員を増やすことや、今、世界でジェンダード・イノベーションズが重視されていることを教員が生徒に伝えていくことも重要だという。「日本の中学・高校の理数系教科の女性教員比率は3割にも満たない。解決できてない優先課題の一つ」と河野氏は指摘する。次に、高等教育段階における課題として河野氏が挙げたのは、「垂直方向にも、水平方向にも男女の偏りが大きいこと」であった。垂直方向の偏りは、大学進学率の男女差に始まり、学部生、大学院生、そして、助教から学長に至るまで、教育段階や職階が高くなるにつれて女性比率が低くなっている現状がある。水平方向の偏りについては、女性の進学率が上がっているにも拘わらず、女性の学部生におけるSTEM分野を専攻する学生の割合に大きな変化がないことを河野氏は指摘する。国の政策として理系進路選択支援事業が始まった2008年と2022年を比較すると、理学は2.0%→1.8%、工学は4.2%→5.0%で、大きな上昇は見られず「これまでのやり方ではダメということ」と河野氏は話す。では、この偏りを改善し、理系分野で活躍する女性を増やすには、大学はどのような取り組みを行うべきか。河野氏が提言するのは、①理系に限らず正規職の女性教員を増やす、②分野によっては学部・大学院の女性学生比率向上策を講じる、③女性の大学進学率が向上しても女性学生に占める理工系割合が増えていない原因を大学ごとに解明する、の3つだ。「女性教員の数は増えているものの、非正※「平成29年度内閣府委託調査:女子生徒等の理工系進路選択支援に向けた生徒等の意識に関する調査研究」調査報告書(株式会社リベルタス・コンサルティング)、および「令和3年度内閣府委託調査:女子生徒等の理工系分野への進路選択における地域性についての調査研究」調査報告書(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)より規雇用や任期付き雇用が多い現状では上位職や管理職は増えないため、正規ポストでの雇用を増やす必要がある。ただし、分野によっては博士課程までの女性が少なく女性教員増につなげられない状況があるため、②が必要。そして、②を行うには③が必要だが、女性学生に占める理工系割合が増えない原因は大学の入試難易度によって異なってくるため、個別に分析が必要」と河野氏は説明する。他方で、女性の数や比率だけを追うことへの警鐘を河野氏は鳴らす。「数だけを増やそうとしても、少し増えたらまた減ってしまったり、男性を標準とした組織の制度や風土に阻害されて女性が働き続けられなかったりすることは、既に数を増やす施策に注力したイギリスやアメリカが経験済。われわれはその失敗を生かすべき」と話す。そこで河野氏が提示するのが、組織の数的なジェンダーバランスという「景色」に「組織」「知識」を加えた3つのバランスを整えながらジェンダーバランスを改善していく「男女共同参画推進のための三角モデル」(図2)だ。「数を増やしていくには、組織の制度や風土に埋め込まれたジェンダーステレオタイプやアンコンシャス・バイアスに気づき、低減させる、また、研究対象の選択や研究方法等知識生産の全てのプロセスにおいて、知らないうちに男性が標準になっていないか確認する、あるいは、科学研究や技術開発に積極的にジェンダー視点を導入するジェンダード・イノベーションズを行うなど、組織や知識が変わらないとうまくいかない」と河野氏。組織変革のための具体的な取り組みとして、アンコンシャス・バイアスの低減のほかに、欧米で取り組まれ始めている、大学に新たに入ってくる教職員に組織のダイバーシティ推進のためにできることを表明してもらう「ダイバーシティ・ステートメント」の導入や、教員の評価方法の変更等も挙げる。「実績の数だけでなく、研究の将来性や独創性も評価していけば、育児休業等でブランクのある教員が不利になることも減るだろう。また、管理職の候補者を選ぶ際に男女比が半々になるように意識的に声かけをしていくことも、できることだ」と河野氏は話す。これらの取り組みが広がることを期待したい。(文/浅田夕香)年への意思決定21特集204001

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