カレッジマネジメント238号
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スタートアップと、地元中小企業との連携新しい産学連携の形「A-SAP」う意識も少なかった。一方、浜松は県内随一の輸送機器の工業都市として潤っていたが、工場の海外移転が進むなか、中小企業が取り残されていった。次世代を支える産業の模索のさなか、02年の文部科学省のクラスター事業参画時に、浜松市は次世代を見据えたオンリーワンの産業としてイメージング技術を据えることになる。イメージングの産業を「オプトロニクスクラスター」と名付け、静岡大学と浜松医科大学で推進してきた。静岡大学の前身である浜松高等工業で100年前にテレビが発明された歴史があり、以来画像処理技術の研究が綿々と受け継がれてきた歴史から生まれたものでもある。イメージングを中心に据えた産業クラスターも他にはない浜松だけのものだ。オンリーワンの技術を生み出すべく大学と企業で「産業イノベーション・エコシステム」を作り上げてきた。産学のイノベーション・エコシステム形成のためには、「大学は他にはない個性的な研究をやっていることがまず重要」としたうえで、研究を事業化や社会実装にどのように結び付けていくかが重要になる。オプトロニクスクラスターでは、大学としてのスタートアップ企業の立ち上げと、地元中小企業との連携の2つに力を入れ、研究成果の事業化、社会実装化の実現に取り組んでいる。「事業化や社会実装は簡単なことではありません。製品化まではいくことがあってもそのあとほとんどはうまくいかない。それでも『死の谷』に落ちないように一生懸命続けていくことが大切です。これまでも色々な試行錯誤がありました(図2)」。静岡大学発のスタートアップは2023年8月現在、45社が生まれている。うち2社がスタートアップとしての出口にたどり着いている。1つはマザーズ上場、1つはM&Aでバイアウトという形だ。さらにあと1社がまもなく大きな資金調達にたどり着く算段がついている。「スタートアップが最終的に成功に至るまでに、ライセンス、知的財産の管理は戦略を持って管理していかないといけません。そういった育成プロセスが非常に大変ですが、大学の研究がスタートアップで成功した事例ができると、その事実に大学も勇気づけられますし、大学の教員にとっても良い刺激になる。また寄付金としてスタートアップ企業から大学に資金が還元されることもあります。こういった形もエコシステムの一環と言えます」。そしてもうひとつの方法、地元中小企業と大学の研究機能が連携することによって新しいイノベーション・エコシステムを作り出すという取り組みは、産学連携の王道でもある。「中小企業はそれぞれの固有の技術を持っています。その技術を違う道に展開したり、新たなビジネスに広げていくイノベーションは、地域にとっても次世代に向けた産業を生み出す可能性につながる。そのときに大学と一緒に検討を進めることは産業界にとっても重要であり、大学はこのイノベーションの核になれる存在だと思います」。出典:木村博和氏資料図2 浜松市の地域イノベーションに向けた大学改革26

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