カレッジマネジメント238号
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気候正義と科学の要請から1.5℃目標(=2050年カーボンニュートラル)へ表しているが、2013年に出された「第5次評価報告書 第1作業部会(自然科学的根拠)」のレポートでは、「二酸化炭素の累積総排出量と世界平均地上気温の応答は、ほぼ比例関係にある」という事実を指摘した。この事実が意味することは、CO2を減らさない限り気温上昇は止められないということと、「どこで」または「いつ」CO2を出しても気温は上昇するということだ(図1)。2022年6月以降パキスタンでは、モンスーンによる豪雨と深刻な熱波に続く氷河の融解の影響によって大規模な洪水が発生したことで、国土の3分の1が水没し、約1700人の方が亡くなり、約1万3000人が負傷し、210万人以上が家を失うなど壊滅的な被害を受けた。パキスタンの現時点での一人当たりCO2排出量は1トン程度で、世界平均4トン程度、日本の8トン程度に比べてほとんどCO2を出していないのに大きな被害を受けるという「地域間格差」が生じている。2008年に横浜で行われたアフリカ開発会議に出席した当時横浜市副市長の阿部守一氏(現・長野県知事)は、ノーベル平和賞を受賞したワンガリ・マータイ氏から「もったいない」という言葉のほかに、当時から「アフリカでは気候変動のせいで開発が妨げられており『carbon justice』ではない」、という言葉を聞き、今も強く印象に残っていて、それが彼を気候変動の取り組みにかきたてる原動力の一つになっていると言う。(2023年3月に公表されたIPCC第6次評価報告書「統合報告書」より)また、この事実は、今日生まれた子は、まだCO2を出していないのに、すでに1.1℃気温が上昇した世界で暮らさざるを得ず、生まれる年が遅くなればなるほど、平均気温の高い世界で暮らさざるを得ないという「世代間格差」が生じることを意味する(図2)。このように、気候変動がもたらす「地域間格差」や「世代間格差」等の不平等に対して、「気候正義(climate justice)」を求める声が気候変動の国際交渉を行うCOP(締約国会議)等で年々高まっていた。また、2018年10月にIPCCは「1.5℃特別報告書」を発行し、2015年12月に採択されたパリ協定で世界共通目標とした2℃でも深刻な温暖化影響が起こることを示し、1.5℃への道を示していたことを受けて、これ以上の深刻な気候被害を起こさないために、2021年11月に英国・グラスゴーで開催されたCOP26では、パリ協定では努力目標だった1.5℃を世界の共通目標に押し上げた。2℃目標では、2100年ごろに世界のCO2排出量を0にする脱炭素を目指すイメージだったのが、1.5℃目標では、2050年ごろに0にする「2050年カーボンニュートラル」の達成(そして、その後は当分マイナス)となり、ゴールポストが約50年前倒しになった。図2 気温上昇とそれを経験する各世代の年齢34

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