カレッジマネジメント238号
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日本の国際競争力低下組織の多様性が、イノベーションの源泉に起業教育を実学教育の次の柱の一つに産業界へアクセスする際の「全学の窓口としてワンストップソリューションを実現する組織」であると竹原リエゾンセンター長は説明する。大きな特徴は「企業の課題を自ら探しに行くところ」(細井学長)で、年2回、大阪と東京で「近畿大学研究シーズ発表会」を開催して代表的な研究成果を発表するとともに、多様な課題に対する解決の種を持っていることをアピール。ほかにも、様々な展示会に参加して研究成果の発表を行っているという。「企業が大学に来るのを待つのではなく、『どうぞ我々の研究成果を使ってください』という姿勢で出ていく。こうした活動によって、お互いの問題解決の成果を次の一歩に活かすことができている」と細井学長は話す。企業からの問い合わせは年間300件を超え、コーディネーターを務める6名(うち1名は弁理士)がまずは対応する。知財の相談に関しては別途1名の知財コーディネーターが専門で対応する。コーディネーターとセンター長は週1回のミーティング等で課題を共有して、各学部の教員数名ずつからなるKLC所員と連携を取りながら、各企業の問い合わせや要望に適した研究室・教員を探し、つないでいく。こうした取り組みの成果として、冒頭に挙げた受託研究実績があるのである。さらに、近大の産学官連携のもう一つの特徴として竹原センター長が挙げるのが、「理系だけでなく、文系のゼミ・研究室との共同研究が多いこと」だ。株式会社近鉄百貨店、株式会社新魚栄(共に大阪府大阪市)との産学連携により、農学部の学生が農産物の生産や商品名の提案を、文芸学部の学生がお重を包む風呂敷などのデザインを行った近鉄百貨店オリジナルおせち「近大味めぐりおせち」などが一例で(写真)、「擬似体験ではありますが、まさしく学生が現場に出ていく経験をすることができ、実学教育の一端を担っています」と竹原センター長は話す。 そして、多様な共同研究が実現する土壌には、学生や教員の多様性がある。「在学生は3万4000人を超え、スポーツに力を入れている、デザイナーとしてバリバリ活動している、情報技術に長けている等、多様な学生がいて、目指す職業も研究者、公務員、会社員、教員、起業家と多岐にわたります。大学からは、『自分の好きなところにとんがればいい』と伝えており、授業だけでなく、学生達の能力を引き出す様々なイベントやビジコン、プログラムも行っています」と細井学長。「その中で、『やりたい』という積極的な学生をまずは周りの教員がうまく支えて、その学生を『まねしたい』『追いつきたい』という学生が出てくるような大学になっていければ」と続ける。そして、今後実学教育に加えていくファクターとして近大が注目しているのが、アントレプレナーシップ教育だ。2023年4月に実学社会起業イノベーション学位プログラム(修士課程)を開設。また、2025年までに100社の大学発ベンチャー企業創出をミッションとし、学生と教員の起業マインドの醸成から法人設立・事業展開まで一貫して支援するベンチャー起業支援プログラム「KINCUBA(キンキュバ)」を2022年から実施している。「全員に起業を求めているわけではなく、起業するロジックにある実学として使える要素を学んでほしい。技術やその運用の仕方を知っているだけでなく、その技術が経済的・社会的に有効なものか、また、そもそもその産業に必要なものなのかというところまで起業の過程で考えること自体が、今後、新しい技術やアイデアに出会った際に『分からない、理解できない』と思うのではなく『分からないけれど、可能性は理解できる』と受け止められることにつながる。そんな学生を育てていきたい」と細井学長は力を込める。「2040年には大学が存在するのかという議論もある中、大学はいかにして大学らしさを持ち続けるのか、大学の役割や本学の独自性とは何かといった点において今後も我々は価値をつけていかなければならない。それを可能にするのが、社会との共同事業をはじめ、大学が外に出ていくことを進めていくことだと思います」と細井学長。近大の産学官連携や起業の取り組みのさらなる飛躍が期待される。(文/浅田夕香)年への意思決定47特集204004

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