のことが大きな気づきへとつながりました。「教育」を取り巻くなかで、一番予測可能な「人口」から「産業・経済・労働」「政治・社会」「外交・紛争」「自然環境」「科学・技術」における可能な範囲での未来予測を行いました。その際、村田は当時から「AIが社会を大きく変える可能性が高い」と見立てていました。第4次産業革命が進行する中で、AIがするべき仕事と人間がするべき仕事は何かという話や、それによる中間層の減少からベーシックインカムといったテーマも出てきます。AIの軍事利用が戦争のあり方を変えることも既に指摘されていました。また、長い間、GDPの成長が各国の目標でしたが、世界は地球環境ひいては人類の持続性(Sustainability)、そして個人や集団のWell-beingこそを重視し始めています。そうすると、教育の目的も従来から変化し、新しい時代に向かって新しい価値観や能力を備えた人を育てることが大事になってきます。新聞やニュースでバラバラに認識していたことが全部関係して動いていること、それによって日本の高等教育も大きく変化をしていかなければならないことを実感できたのです。これが一番の気づきで、自分の視野が幅も奥行きも大きく変わりました。我々が大学をマネジメントしていくには、教育分野だけ見るのではなく、社会全体を様々な角度から見ていくことが、最適な道を探るうえでの必要条件なのだと改めて認識しました。――自分達自身で将来予測をしたからこそ、大きな気づきがあったわけですね。小野 その通りです。では教育はどういう方向性に向かっていくかというと、OECDがDeSeCoでキーコンピテンシーという概念を提示してから、大学教育は「教育」から「学習」へと大きく変化しました。OECDは「Education2030」プロジェクトでそれをさらに深化させた概念を提示しています。教育の目的も、知識の伝達から、問題を設定し、解決するための総合知や実践力の涵養へと変わっています。また、オンライン・オンデマンド教育や、AI活用による個別最適化等の教育DXも進んでいきます。国際化に関しては、単に受け入れ・送り出しを拡大するだけでなく、質保証を国際標準にすることが必要です。国内の18歳人口が減少していくなかで、外国人学生を日本人学生と共に主たる教育対象としていかに位置づけられるかを考えなければならなくなります。さらには40年前から言われている社会人の教育というテーマにももう一度改めて向き合うべきだと思います。こうした状況認識に基づいて、多くの教職員が議論を重ね、教育の目的、内容、教授法、教員・職員の役割、施設の在り方をトータルで変化させていく必要があると考えたわけです。――神奈川大学も2028年を目標に学園の将来構想を策定されていますが、花嶋さん、どういった経緯だったのでしょうか。花嶋 本学も関西学院さんと同様に、2008年の創立80周年の時に、創立100周年に向けて本学がどうあるべきかの将来像を考えようということで、2028年までの20年スパンで見た将来構想の策定を開始しました。実際に検討を始めたのは2007年で、学内の教職員や外部の有識者、卒業生の方にも入って頂いて議論がスタートしたのですが、当初はどのように策定するかという手法に関して色々な意見があり、まず本学の現状分析を充分に行ったうえで、足りない部分を伸ばすところから議論した年への意思決定53特集2040大学マネジメントは、教育分野だけでなく、社会全体を様々な角度から見ることが、最適な道を探るうえでの必要条件。(小野)足りない部分を伸ばすという考え方ではなく、本学がどういう大学になっていたいかという将来像をまず見据えることが重要。(花嶋)
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