早稲田大学政治経済学部では、2021年度一般選抜で大きな入試改革を行った。その内容と成果について、学部広報担当の玉置 健一郎准教授、同副担当の安達 剛准教授にお話を伺った。「早稲田の政経が数学必須化」。2021年度入試に関する記者会見を経て、メディアではこうした文言が多く見られた。当時の入試改革の概観は図に示す通りである。こうした改革に踏み切った背景にはどのような課題意識があったのか。まず、玉置氏は国立大学を第一志望とする層の多さに言及する。「本学への志望意欲が低く、国立大学が不合格で、滑り止めのなかで偏差値が高いことを理由に本学に進学する学生が多かったのです」。ミスマッチ故に大学に対するロイヤリティが低いうえ、学問そのものに対する学修意欲も高くない。大学もそうした学生に対応していないのが実態だった。しかし、「本来は本学できちんと学びたい学生に来てほしい。大学としても意欲に応える教育体制を整えるべきだ、という議論が始まったのです」。こうした背景からカリキュラム改革が始まったのは2019年。「現在、本学部のカリキュラムは国際的に見てもかなり先進的な内容になっています」と安達氏は述べる。政治経済学術院の将来構想によると、新カリキュラムの骨子の第一は、「基本理念であるPhilosophy, Politics, and Economics(PPE)に立ち返り、学科の違いを超えて、全学生に公共哲学・政治学・経済学の基礎を履修させ、その後学科ごとに特徴あるカリキュラムを提供する」とある。まず3学科共通必修科目を設定(政治学基礎科目、経済学基礎科目、公共哲学、統計学等)し、その後各専門科目を積み上げる形のカリキュラムに大きく変更した。「経済学は本来、方法論を学修してからでないと先端研究に進めない学問なのですが、多くの大学では学生の自主性に任せた自由履修スタイルが主流です。本学部では本来あるべき学修成果に照らし、段階的に構造化した教育体系を再構築しました」と安達氏は補足する。新カリキュラムに必要な素養を踏まえ、数学を入試で必須の評価対象とした。玉置氏は「通常、私大文系専願の学生は、数学を高2までしか履修してきていません。それ以降一切数学に触れない状態で入学してくる。しかし、本学部は政治経済学部である以上、政治と経済を両方押さえる必要があり、論理的思考力と最低限の数学的スキルは必要です。素地がゼロでは教育して社会に送り出すのが非常に厳しい」とその狙いを述べる。ただし、前述した通り国立志望層が多い学部の特性上、既存の入試制度でも数学受験者は多かった。どちらかというと、政治経済学部によりフィットする形で選抜を行うカレッジレディネスの意味合いと、それを世間にブランド認知させる意味合いが強いのだ。なお、政治学と経済学で必要な数学のレベルは異なるそうだが、「政治経済学部としては政治と経済で入試を変えたくなかった」と玉置氏は話す。学部として1つの入試制度に集約するために、数学Ⅰ・Aを最大公約数的に位置づけた。学部広報担当 准教授玉置 健一郎 氏学部広報副担当 准教授安達 剛 氏74学問としてあるべき姿への教育改革が起点となった入試改革カレッジレディネスを忠実に踏まえた選抜方法への変更事例report 早稲田大学 政治経済学部 2021年度入試改革のその後入試は社会へのメッセージ
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