カレッジマネジメント238号
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まとめると、入試改革の目的は、「政治経済分野に強い関心を持つ高校生を集めること」「新カリキュラムの教育効果を高めること」だという。入試改革は単なる科目変更ではなく、新カリキュラムに適合する意欲的な学生を選抜するための仕組みというわけだ。では、入試改革の現状の成果はどうなっているのか。まず志願者数は、改革前の2020年度一般選抜では5584名だったのに対し、2023年度は2866名とほぼ半減した。これについて安達氏は「記念受験が減った感覚」と述べる。では、当初の2つの目的に照らし、質の変化はどうか。玉置氏によると、出願時に提出する評定平均は5段階評価のA評価(4.3~5.0)の割合が、5年前と比較すると志願者(32.8%→45.1%)でも入学者(40.7%→51.6%)でも増加している。「記念受験が減り、実際に入学層の成績も大幅に上がっていると認識しています」。ただし、もともと国立志望層が多かったこともあり、数学必須化のインパクトは世間が思うほどではなさそうだ。安達氏は、「受験層がものすごく変わったわけではなく、今まで通りの学生が入っている。ただ、トップ層の質が多様化した印象です」と述べる。もともと多くなかった私大専願層がさらに受験しづらくなったことで、相対的にカリキュラムにマッチする質の学生が増えたと見る。なお、附属校では数学Ⅲまで学んでくる生徒が大半だという。様々な水準の数学力を持つ学生が入学してくるわけだが、入学後は共通基盤教育を担当する大学入学共通テスト(100点)学部独自試験(100点)項目以下4科目を25点ずつに換算 ①外国語(いずれか1つを選択):英語(リスニング含む)、独語、仏語 ②国語 ③数学Ⅰ・数学A ④選択科目(いずれか1つを選択):  ・地理歴史 世界史B、日本史B、地理B から1科目  ・公民 現代社会、倫理、政治・経済、倫理・政治・経済 から1科目  ・数学 数学Ⅱ・数学B  ・理科 物理基礎、化学基礎、生物基礎、地学基礎 から2科目 あるいは 物理、化学、生物、地学 から1科目・総合問題を120分間で実施 ・日英両言語による長文読解形式、記述式含む ・英語ライティング力をはかる問題も加える図 2021年度一般選抜入試改革の概要(3学科共通)グローバルエデュケーションセンターの授業や、数学系のLAによるサポート等でレベルに応じたサポートを行っている。なお、一般選抜において課すハードルは数学Ⅰ・Aだが、実際は数学Ⅱ・Bの受験率が92%余り。ただし、比較可能なデータはないが、改革前から、激増したとは考えていない。大きく変化したのは学内併願だ。「理工系学部との併願数が増えてきています」と玉置氏は言う。また、共通テストの科目選択において、理科2科目を受験している層が毎年1%程度徐々に増えている(現在入学者で約14%)ことからも、入試改革は理系学生の獲得に一定寄与していると言えそうだ。理系学生を獲得できていることは、新カリキュラムとの整合としても大きいという。ほかにも、データ上では志願者の女子比率が向上し、首都圏外の入学者が増加した。確実に変化は起こっているものの、それを大学教育等に活用するには時期尚早と見る。「近年はコロナ等影響要因が多すぎて、同じ状況でない比較をすることは妥当ではありません」と安達氏はその意図を説明する。状況が平準化し、パラメータを変えて比較できる状態になって初めて、検証が可能というわけだ。改めて、今回の入試改革は教育改革と連動したものである点に意義が大きい。即ち、時代に応じた教育を志向し、あるいは本来あるべき姿の教育を考えた時に必要な人材を再定義し、そこに忠実に評価方法を再考した。起点が教育にあるからこそ、本質的な改革に踏み込めたと言えるのではないだろうか。内容(文/鹿島 梓)75トップ層が多様化し、カリキュラムに整合する層が相対的に増加

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