カレッジマネジメント238号
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リカレント教育の手段としての共同研究共同研究のプロセスを通じてELSI人材を育成一人ひとりが異なる志向を持つ社会人は、これまで同質性の高い18歳入学者に特化しその態勢を最適化してきた日本の大学にとって、「新たな市場・顧客」である。時々刻々と変化する環境下、また各大学それぞれに経営課題も利用できるリソースも異なる中、社会人マーケットの開拓を目指す取り組みには「正解」や「定石」のようなものはないだろう。しかし、だからといって立ち止まってはいられない。この連載では、それぞれの方法で社会人に向き合って試行と探索を行う先駆的な取り組みをレポートしていく。「僕は、ELSIは、リカレント教育として非常に適したテーマだと思っているんです」と話すのは、大阪大学社会技術共創研究センター(ELSIセンター)センター長・岸本充生教授。最新の科学技術が新たな商品・サービスとして提供される際の課題。その対応・解決に、さまざまな企業の実務家と「共創研究プロジェクト」を展開し取り組んでいる。ELSI(エルシー)とは、倫理的(Ethical)・法的(Legal)・社会的(Social)課題(Issues)の略称。新たな技術が社会に導入される際、そのままでは社会のルールにそぐわない場合がある。そうしたズレが事件や事故につながり、技術の推進が難しくなったり、社会にとって有益な用途が実現できなくなることも少なくない。これからの時代のイノベーションには、そうしたELSIをいち早く発見し、主体的に解決に取り組む人材が必要となる。大阪大学ELSIセンターは、実際の課題解決とともに、そのプロセスを通じた人材育成をもミッションの一つに掲げている。プロジェクトパーソナルデータに関する倫理指針の策定や プライバシーポリシーの改正、研修の実施社会実装まで視野に入れた研究開発を 事前に評価する仕組みづくり顔認証技術を題材とした倫理的・法的・社会的課題(ELSI)に関する共同研究ELSIに配慮した研究推進のための手引きの策定日本放送協会 放送技術研究所共創先OsakaMetro(大阪市高速電気軌道株式会社)株式会社電通株式会社メルカリの研究開発組織「mercari R4D」日本電気株式会社(NEC)(NHK技研)時期2020年~2021年2021年~継続中2022年~継続中2022年~継続中イノベーションの担い手の育成は、リカレント教育の目的の一つである。しかし、イノベーティブなテーマであればあるほど、教育プログラムとしての提供は困難だ。正規の学位課程はもちろん、履修証明プログラム、あるいはオンデマンドの動画であっても、プログラムを設計し確立するにはある程度の時間が必要となるからだ。では、ほかにふさわしいやり方はないのか?そう考えていた時出会ったのが、大阪大学ELSIセンターが実施する共創研究プロジェクトであった。その取り組みは、社会人の学習機会としてどのように機能しているのだろうか?「2014年、大阪駅の駅ビルで人流解析実験をしようとしたプロジェクトが『大炎上』し中止となった事件がありました。大阪大学 社会技術共創研究センターセンター長・教授岸本充生 氏23年1月に「『社会技術』を生み出す:ビジネスとアカデミアの共創実践」というテーマで開かれたELSI Forum には、リアル会場・オンライン合わせて研究者・企業人130名が参加。「顔認証技術」などELSI対応に関わる事例紹介ののち、3つのグループに分かれて意見交換が行われた。大阪大学ELSIセンターの主な共創研究プロジェクト76リクルート カレッジマネジメント238 │ Oct. - Dec. 2023大阪大学 社会技術共創研究センター(ELSIセンター) データビジネス、AI技術…最先端ビジネスの企業人と人文・社会系研究者による共同研究でイノベーションの担い手を育てるシリーズ リカレント教育最前線 ④共創研究プロジェクト

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