役割(多様な機関による多様な教育の提供)、高等教育を支える投資(コストの可視化とあらゆるセクターからの支援の拡充)である。ガバナンス改革と教職協働もこの間における特筆すべき動きである。教育再生実行会議第三次提言や日本再興戦略などを踏まえ、中央教育審議会大学分科会が2014年2月にまとめた「大学のガバナンス改革の推進について」では、学長のリーダーシップの下で、戦略的に大学をマネジメントできるガバナンス体制の構築が不可欠とした上で、学長補佐体制、人事・予算、学長の選考・業績評価、学長のビジョンを共有できる学部長等の任命と業績評価、教授会の役割の明確化などの方向が示された。学長補佐体制では、総括副学長等の設置のほか、高度専門職の安定的な採用・育成、事務職員の高度化による教職協働の実現、IRの充実などが謳われている。これらの方針を受けて、2015年4月には学校教育法と国立大学法人法の改正が行われた。前者において、教授会の役割は、学長が教育研究に関する重要な事項について決定を行うに当たり意見を述べること、学長・学部長等がつかさどる教育研究に関する事項について審議し、及び学長・学部長等の求めに応じ、意見を述べることができること、が明確に示された。また、2016年の大学設置基準等の改正により、2017年4月よりSDが義務化され、グランドデザイン答申に基づいて大学分科会質保証システム部会がまとめた「新たな時代を見据えた質保証システムの改善・充実について」を受け、2022年10月に大学設置基準が改正された。この中で必要な教員及び事務職員等からなる教育研究組織の編制など、教員と事務職員等の関係が一体的に規定された。この間、18歳人口は2005年の133万人から2022年の112万人に減少。名目GDPは2005年の534兆円から2021年の550兆円と低い伸びにとどまり、その結果世界のGDPに占めるわが国のシェアは10.1%から5.2%となり、一人当たり名目GDPはOECD加盟国中13位から20位まで大きく順位を下げた。ちなみに同期間において中国の名目GDPは8倍近い規模になり、日本の約半分から3.5倍にまで差を広げている(主要経済指標は2022年12月23日「2021年度国民経済計算年次推計」内閣府経済社会総合研究所より)。国が政策を通して大学に改革を促す動きが強まった背景には、少子高齢化が進み、国・地方の財政や社会保障の持続可能性が危惧される中、主要国でただ一国、成長から取り残された我が国の現状に対する強い危機感があることは明らかである。大学は外からの強い圧力なしには変われないという根強い不信感を持つ一方で、我が国の成長のために大学の人材育成機能とイノベーション創出に過大ともいえる期待を寄せる。そして実際に求められ、評価されるのは外装に過ぎない組織や制度であるとしたら、あまりに短絡的であると言わざるを得ない。このような状況に対する大学関係者の危機感は年々強まりつつある。とりわけ、地方国立大学の状況は深刻であり、退職者の後任補充を行わない「人事凍結」などにより、基礎体力が奪われつつあるように思われる。前述の通り国の政策に導かれるように進む大学改革については課題も多いが、国公立大学の法人化や学校法人の管理運営制度改善、ガバナンス改革と教職協働、教育の質を問い続ける中教審答申など、方向性自体は概ね正しいと考えている。また、政策主導の改革だけでなく、個々の大学が危機感をバネに自ら改革を進め、成果につなげるケースも少なくない。国立大学の法人化を失敗と評する声もあるが、渡し切り予算である運営費交付金と法人の長としての裁量権を与えられ、運営に創意工夫が求められる制度自体に問題があるのではない。制度を活かしきれない国や法人の運用により大きな問題があると考えるべきではなかろうか。81ガバナンス改革の推進と教職協働の実質化成長への貢献期待と根強い不信を背景に進む改革改革の方向性は概ね正しく一定の前進が見られる
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