カレッジマネジメント238号
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学教育における最大のテーマである。課題の最後に指導的立場にある人々のマネジメント能力をどう高めるかという点について述べておきたい。企業経営の経験があれば理事長が務まり、教育研究実績があれば学長が務まるほど、学校法人経営も教学運営もたやすいものではない。理事、副学長、学部長、部課長なども同様である。これらの指導的立場にある人々のマネジメント能力如何により法人経営も教学運営も大きく左右される。能力が不十分であれば、教職員の力を結集してより豊かな教育やサービスを学生に提供することなど難しい。そのためにも、役職者はそれぞれのポジションで如何なる役割を果たすべきか、そのためにどのような能力を身につけるべきかを明確にした上で、それに相応しい人材の登用と育成を考えていく必要がある。そして、期待に応えられない人材は替えるくらいの厳しさが必要である。この18年間を振り返っても法人経営・教学運営ともに難度は飛躍的に増しており、さらにその傾向は強まるだろう。最後に自身の18年間を振り返り、いま考えていることを述べてみたい。国立大学が法人化される1年前の2003年に筑波大学に着任した。1年目は法人化の準備、法人化後は法人運営の基盤整備に追われた。懸案となっていた学群・学類改組に携わるとともに、理事として7件の不祥事会見も経験した。大学本部を離れてからは大学研究センター長を務めながら経営学の教員として社会人大学院における教育研究にも携わった。その後、東京都公立大学法人や大学共同利用機関法人情報・システム研究機構などを経て、現在学校法人東京家政学院理事長の2期目がスタートしたところである。この間に訪問した大学はコロナ禍のオンラインを含めると120校程度になる。非常勤の監事や経営協議会委員などの形で経営に関わった国公立大学、外部評価委員などを務めた私立大学などは十数校になり、国公私立を超えて全国の多くの大学関係者の話を聞き、対話を重ねることができた。理事長就任を打診された時に、家政系の女子大に未来はあるのだろうかと考えた。他方で、国公立大学に籍を置きながら大学を論じてきた自らへの反省もあり、厳しい環境に置かれた私立大学にコミットすることで得られるものも多いのではないかとも考えた。そして何よりも、明治の時代に文部省の命により英国に留学し、帰国後に日本における家政学の確立に力を尽くした創立者大江スミの思いを引き継ぎ、学院を守り発展させなければという使命感が湧いてきた。理事長1期目は、経営を可視化し、対話を重ね、法人と大学の垣根を取り払い、学院内の風通しを良くすることに努めた。組織をフラットにすることで中堅・若手が伸びる環境も整えた。しかしながら、数字に表れる成果を得るに至らなかったことから、3年の任期が終わる半年前に進退を理事会に諮り、自身を除く理事で次期理事長のあり方を話し合ってもらった。その結果、次の期も指揮を執るようにとの判断が下されたため、2期目をスタートさせたところである。新たな理事会は11名の理事のうち6名が女性理事である。また4名が大学職員出身者(3名は他の私立大学で役員や事務局長を務めた経験者、1名は内部登用)である。お茶の水女子大学の監事を務め、国が進めるダイバーシティ研究環境実現イニシャティブ事業にも関わり、性差を超えて多様な人材が活躍できる組織や社会をつくることは我が国の最大の課題と考えてきた。また、大学という組織に最も深くコミットし、大学を運営するための豊富な知識や経験を有している職員を活かすことなしに改革は成し得ないと一貫して主張してきた。それを形にしたのが今回の理事体制である。監事についても男女1名ずつで、共に大学職員を経験している。自分たちは何のために何を目指して努力すれば良いのかを明らかにすることもトップの役目である。「今さら家政学83国公立大学から私立大学の経営へ自らの進退を諮った上で2期目の体制を整える「家政学」を新たな歴史的文脈の中で再定義

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