カレッジマネジメント238号
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tnemeganaM ytisrevi IgnitavonnnUでもあるまい」という世の中の空気を変え、新たな発展につながるストーリーを描きたいと考えている。過去にも人文や福祉などの分野を有していたことがあるが、リソースが限られている以上、領域を拡大するよりは得意分野で強みを発揮するしかない。そのために「家政学」の本質を検討した上で、新たな歴史的文脈の中で再定義することに取り組んでいる。他大学の家政学研究者からも話を聞いた。また、「AIの時代には本質を問う哲学と生きることを考える家庭科が大切」と説く美馬のゆり公立はこだて未来大学教授(教育工学・科学コミュニケーション)からもその意図するところを聴き、助言を得た。これらの話は学長はじめ教職員と一緒に聴くようにしている。考えてみると、家政学こそ文理融合、学際融合の先駆けである。家政イコール良妻賢母と捉えられがちだが、SDGsの時代こそ「生活者」の視点に立ち、身近なところから周囲を巻き込み小さな変革を起こすことが大切だと考えている。家庭に限らず地域においても企業においてもその必要性は増してくるはずである。受験科目にはない家庭科は軽視されがちだが、家庭科の教科書は生きるために必要な知識を幅広く扱っている。そのことを気づかせてくれたのが美馬教授である。創立者大江スミが考えた家政学の原点を確認しつつ、生活や生活者を切り口とした真に有用な学問としての新たな発展を主導する。そのような学院を目指したいと考えている。もう一つ考えるべきは、入学してくる多様な学生に、学ぶことの面白さを伝え、自分が成長しているという実感を持たせることである。18歳人口の減少は市場の縮小を意味するが、見方を変えると急速に減少する若者たちがこれからの社会・経済の担い手になるということであり、これまでの世代以上に一人ひとりに大きな役割が期待されることになる。そのための教育はどうあるべきか、一からつくり直すくらいの覚悟で改革に取り組む必要がある。作家で日本大学理事長の林 真理子さんの母とシンガーソングライターの松任谷 由実さんの母がともに東京家政学院の卒業生であることを二人の誌上対談で知り、それぞれの母が登場する小説を読んでみた。山内 マリコ『すべてのことはメッセージ 小説ユーミン』(マガジンハウス,2022)に、松任谷 由実さんの母芳枝さんに関して次のような記述がある。「女学校や家政学院で学んだこと、すべてが実地で役に立った。英語は実践的なコミュニケーション手段となり、洋裁は立派な商売となり、自分の力でお金が稼げて、お客さんからは喜んでもらえる。これは楽しくて仕方ない。せっかく培った能力を活かせるときがようやく来たのだ。」戦争が終わった直後の日本という時代背景もあるが、その時代において高等教育が如何に貴重な学びの場であったかを感じさせる一節である。一から教育をつくり直すといっても大学のリソースは限られ、ましてや中小規模の大学には大きな制約がある。教職員がそのことを自覚した上で、大学の外の力を最大限活用することが重要である。例えば、教員養成系の学科の指導に初等教育に携わる現職教員または教員経験者を加えたり、企業、自治体、非営利法人など多様な分野の実務家による授業を増やしたりすることで、より豊かな教育を提供できるはずである。既に多くの大学が実践していることだが、地域や社会が抱える課題に向き合う機会を増やすことで、学生はもとより教職員の成長も促される。都心と郊外の2キャンパス体制である本学院の場合、郊外にある町田キャンパスの学生募集は年々厳しさを増しているが、町田を「開かれたキャンパス」として、地域に開き、社会に開き、世界に開くことで新たな発展につなげたいと考えている。失敗を恐れずに新たなことに次々と挑戦する雰囲気ができて定着すれば、「守るべきは守り、変えるべきは柔軟に変える」組織文化が醸成されるだろう。一方で、ただ前を向いて進めば良いというほどに楽観できる状況でないことも承知している。本稿執筆時に私学事業団が公表した2023年度の入学者数では、定員割れした私立大学数が600校中320校、53.3%となり、初めて5割を超えた。また数日前には2023年前半の出生数37万人という衝撃的な数字も公表されている。これからの私学経営において最悪の事態を想定しておく大学を強くする「大学経営改革」84教育を一からつくり直すくらいの覚悟が必要

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