17本調査の結果は、大学の危機がいよいよ現実の問題となり、私立大学は既にその渦中にあることを改めて感じさせるものとなった。文部科学大臣の中央教育審議会への諮問では「設置者の枠を超えた、高等教育機関間の連携、再編・統合の議論は避けることができない状況」との認識が示されているが、私立大学の理事長の9割近くは淘汰・再編を避けられないと考えており、現時点において経営面で特段の不安を感じていないとの回答は1割にとどまる。このような状況を背景に、理事長の6割近くが収支バランスを極めて重要な課題と認識し、重要度・緊急性の高い経営施策として、学生募集、教育力の強化、広報・ブランディング戦略の強化をあげている。国際化やダイバーシティ等の重要性を認識しながらも、収入確保に直結する施策に対しては大きく劣後する結果はやむを得ない面もあるが、世界における日本の立ち位置を考えた場合、それで良いのか疑問もある。最も気になった点は、経営施策への取り組みに対する評価において、「取り組んでいるが評価はどちらともいえない」が全ての施策において圧倒的に大きな割合を占めていたことである。取り組みに対して満足でもなく、不十分だと感じているわけでもなく、成果に対する評価もどちらともいえないとの回答が意味するものは何であろうか。「やってはいるが手応えを感じない」という感覚が近いようにも思われるが、取り組みそれ自体に対する評価、それによってもたらされる成果に対する評価をより明確化することで、経営の質をさらに一段高めることができるものと考える。経営施策を実施するに当たっての課題については、前述の通り、資金制約の面と教職員の能力向上・意識変革に強い問題意識を持っていることが明らかになった。資金面は別にして、構成員の能力・意識を含めて組織をどう変えていくかは、あらゆる組織における最大のテーマである。特に大学は教員と職員という2つの職種によって機能が維持されている。この問題をどう解決するかに大学の将来がかかっているといって過言ではない。今後の方向性については、「経営の規模を維持しながら学問分野の組み替えにより競争力を強化する」との回答が6割近くを占めており、規模の適正化または縮小との回答は3割程度にとどまっている。その一方で、社会人に対するリカレント・リスキリング教育、受け入れ留学生の増加については重視する考えが示されているものの、「極めて重視している」は30%台にとどまる。18歳人口の減少が確実かつ急速に進むなか、大学の事業構造も変わらざるを得ない。これからの大学のあり方をどのように構想しているのか、残念ながら今回の調査で明らかにすることはできなかった。この点は次の課題である。今回の調査を通して私立大学を設置する学校法人の経営者としての理事長が置かれている状況やその認識の一端を知ることができた。このような調査を通して課題認識を共有しつつ、健全なる競争環境のもとで、教育、研究、そして経営の質を高めることができれば良いと考える。この調査がその一助をなることを願いたい。リクルート カレッジマネジメント239 │Jan. - Mar. 2024第1特集●理事長の視界から考える 法人経営の課題取り組みに対する評価、成果に対する評価をより明確にする必要事業構造を含めて大学の将来をどう構想するか本調査結果のまとめ
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