1現状そして課題認識19――最初に、皆さんの学校法人経営における現状と課題についてお聞かせ下さい。井原 私は1969年に早稲田大学に職員として入職してから、同大学の理事、実践女子学園の理事長、現在の白梅学園理事長と、3つの法人経営に携わってきました。大規模、中規模、小規模、共学、女子大と様々で、予算規模も早稲田が1000億円、実践が90億円、白梅が30億円とどんどん小さくなるような経験をしますと、私自身も色々なことを学んできました。そのなかで学校法人の経営における課題として言えることは2つあります。1つ目はコミュニケーションの問題です。私は規模が小さくなるほどコミュニケーションは良くなると思っていたのですが、小さくなるほど会話が少なくなり、意思疎通がどんどん悪くなるという、非常に不思議な体験をしたのです。組織が小さいとムラ社会になり、隣の人に気を遣って萎縮してしまうのが原因です。早稲田のように大きな組織ではみんなが言いたいことを言っていましたし、会議等の意思疎通のコミュニケーションシステムも揃っていました。つまり大規模ほどコミュニケーションが良く、小規模ほど悪い。これが日本の大学界の最大の弱点だろうと私は思っています。2つ目は、教学と法人の一体的運営です。小さな法人はコミュニケーション不足に加え、教学サイドと経営サイドの仲があまり良くありません。我々のような小さな大学にとって、教学と法人の一体的運営は、これから生き残るためのキーワードだと思っています。濱名 私どもは2020年4月1日に学部譲渡方式で神戸山手大学を統合し、翌4月2日に濱名学院と神戸山手学園が法人合併することで、新たに濱名山手学院という法人になりました。ただ法人合併というのは考えていた以上に大変でした。合併のタイミングでコロナが感染拡大し、いわば学部譲渡方式の合併がコロナの波に飲み込まれ、募集が十分にできないところでつまずいている状況です。それに加え、神戸山手女子中学校・高等学校は、私が若いころは神戸で良く知られた学校であったものの、この10年くらいでブランド力が低下していました。ですから経営上の課題の1つ目は、法人としての一体的なチーム力というのがまだまだ形成途上であるということです。これはミクロに考えた場合の課題ですが、我々の今の市場におけるポジションをマクロに考えた場合には、縮小していく18歳人口という伝統的な市場にフォーカスするよりも、募集市場に対する発想をどう転換していくかということが2つ目の課題と言えます。文部科学省の試算によると、2040年には現在の総入学定員数の2割程度の入学者数が減少すると予測されています。2割を割るのであれば、その分留学生を増やして定員充足し、労働力不足も解消するだとか、社会人のリスキリングで大学の役割を果たすだとかの方向に本来は行くべきところです。しかし教育未来創造会議の留学生比率の目標は3%増と、退場を促進するような政策議論は違和感があります。諸外国を視察すると、世界で一番少子化に苦しむ韓国も、人口増のイギリスでも、留学生をいかに拡大するかが共通の議論となっているのです。それには外国の教育機関との連携強化や、中高から内部進学を増やすための高大接続の強化、収容定員の管理や配置の仕方の見直しが必要になります。収容定員は従来の5月1日基準から通年基準で捉え、中退者や編入学者を含め、4年間を通じてのマネジメントを考えなくてはいけません。第1特集●理事長の視界から考える 法人経営の課題
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