カレッジマネジメント239号
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34(1)ガバナンスの意義令和5年4月26日、「私立学校法の一部を改正する法律案」が成立し、改正法は令和7年4月1日から施行されることとなった。これによって私学法の条文は67条から164条へと大幅に増加し、法改正に合わせて寄附行為等の関連規程を整備するだけでも膨大な事務作業が発生することとなる。しかし、形式を整えるだけの表面的な規程の改定作業では対応として不十分である。本改正の趣旨は、学校法人のガバナンス強化にある。将来にわたって永続的な発展を目指すのであれば、ガバナンスの本質に立ち返った議論を行うことが不可欠である。その上で、各学校法人は、それぞれの沿革や実情に照らし、最適なガバナンス体制を模索し、構築していかなければならない。本稿では、2号にわたって解説を行う。前編において、まず、ガバナンスの基本的事項について解説を行い、次に、本改正において最も重要な改正項目である理事選任機関の制度設計についてあるべき姿と検討の視点を提示する。後編では、理事選任機関の各類型の問題点・留意点を示すとともに、1つのモデルを提示し、最後に、役員等の改選プロセスを中心として本改正に関する実務上の対応手順についても解説する。各学校法人が本改正を契機として最適なガバナンス体制を構築し、大学経営に生かすための一助となれば幸いである。なお、本稿の内容は著者らの個人的見解に基づくものであり、著者らが所属する組織の公式見解ではない。(はたけやま・ひろし) 学校法人のM&A、産学連携、ガバナンスをはじめ、大学・教育分野の法務案件を主に取り扱う。2017年〜2020年文部科学省⾼等教育局私学部勤務。2023年〜大学教育質保証・評価センター認証評価委員会委員。TMI総合法律事務所 弁護士ガバナンスの意義を理解する最も直截な方法は、ガバナンスが機能不全に陥った事例を学ぶことである。①理事長による横領・背任の事例②理事間の派閥争いによって理事会が機能不全に陥った事例③不祥事を起こした者を理事長として復職させた事例④慢性的な赤字経営にも関わらず、理事長・理事の交替が行われていない事例いずれも実際に学校法人において生じた事例である。共通するのは、理事長や理事(以下、併せて「経営者」という。)の関与である。経営者は、組織の頂点に位置付けられているため、上司部下という指揮命令関係の中での牽制が働かず、経営者の暴走は長期化・深刻化しやすいという特徴がある。内部通報等に端を発し、報道機関や行政など外部機関の介入によって問題が顕在化する頃には、組織が回復困難なほど深刻(いわた・いたる) 教諭として学校法人にて勤務した後、弁護士登録。教育・学校法人、人事労務、リスクマネジメント等を主に取り扱う。2020年〜2023年文部科学省⾼等教育局私学部勤務。改正私立学校法の立案を担当。TMI総合法律事務所 弁護士[ガバナンスが機能不全に陥った事例]稿寄畠山大志 氏ガバナンスの基本的事項岩田 周 氏 前編私学法改正を大学経営にどう生かすのか1

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